「超一流」になるのに必要なのは才能か努力か 才能ではない「秘密の練習法」とは?
しかし、後にマルコム・グラッドウェルが自著で紹介し有名になったこの「1万時間の法則」は、エリクソン教授の研究の重要なポイントを見落としていました。
それは練習時間だけではなく、ある練習方法が、超一流とそうでない人を分けていた、ということです。
私は2年前、慶應義塾大学で開かれたシンポジウムの席で、エリクソン教授にお会いしました。そのときも、そして本書でも、エリクソン教授はその練習方法について強調しています。
それは、練習時に「自分の限界を少しだけはみ出す負荷をかける」ということです。
ピアニストやバイオリニストであれば、自分の習得できていない技術をさらい、スタートが苦手な短距離選手であればあえてそこだけを練習するといった具合にです。
エリクソン教授は、それを「限界的練習(deliberate practice)」と名付けました。実はこれこそが、これまで全く具体的に示されてこなかった、「正しい努力」の方法だったのです。
私は2000年に、自分にとって初めてのオリンピックである、シドニー・オリンピックに出場しました。しかし、そのときは力を発揮できず、結果は予選敗退。そこで、もっと自分を成長させるために、翌年海外転戦に挑戦しました。海外に挑戦するのはまだ早い、と見る向きもありましたが、レベルの高い場所にあえて自分を置き、常に「限界をはみ出す」環境を作ろうと思ったのです。実際、英語もできず、海外の選手への苦手意識もあるような状況でしたが、そこでの経験が、2001年のエドモントン世界選手権、そして2005年のヘルシンキ世界選手権での銅メダル獲得につながりました。
「即時フィードバック」の重要性
『超一流になるのは才能か努力か?』では、限界的練習の鉄則が他にもいくつか紹介されていますが、中でも「即時フィードバック」の重要性について語られている部分は、たくさんの人に読んでもらいたい。
これは自分の練習を別の視点から見るということです。フィードバックには2種類あって、まずは外からのフィードバックです。たとえば陸上競技のパフォーマンスも、ビデオが出たことによって格段に向上しました。
ただ一方で、内からのフィードバックというものもあります。ある程度レベルが上がってくると、「今はこうやってハードルを飛んでみたけど、ちょっと違う感じがしたから次はこんな感じで飛んでみよう」といった具合に、プレーしながら自分でフィードバックができるようになる。これができるようになると、成長のスピードは一気に上がります。
こうした練習の秘訣は、これまでそれぞれのトッププレーヤーたちがバラバラに、そして感覚的に持っていたものです。エリクソン教授が初めて一般向けに書き下ろしたこの本で、それらが具体的な方法論として、誰もが使える形になったのは、本当に素晴らしいと思います。
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