グローバルエリートからの講評
今回城さんと幸福なキャリアの設計方法について議論がスタートしたはずが、前回コラムで白状したよう30分遅刻して駆け足になり、その後親愛なる読者の皆様とのファンミーティングに挟まれていたためさらに駆け足になり、この対談は唐突な幕切れを迎えてしまった。3回に及んだ対談特集の最後が、まさかカツサンドを食べる約束で終わるとは、申し訳ない限りである。
しかし、その後の読者の皆様との親睦会を含め、城さんが語っていたポイントで印象に残っているのは、もはや多くの企業は人を成長させる役割を持てない、ということだ。ご存じのように、日本では伝統的に長期雇用を前提に企業が人材開発の役割を担ってきた。しかし不況が常態化し、芽が出るかわからない、雇い続けることに意味があるかどうかわからない人に企業が長期投資することができなくなっている。
これは言い換えれば、企業を儲けさせてくれる人材には、選別的に集中投資してくれる、ということだ。たとえばグローバル企業のいくつかは、2000万円近くもかかるMBA留学のコストを負担してくれて、おまけに在学中も給料をくれる。その後あなたをヘッドクォーターの幹部にするために2年ごとにロンドン、ニューヨーク、香港、シンガポールと主要オフィスで大きなエクスパット(本社から海外支社に派遣される社員)用の家とお手伝いさんをつけて子供の私立学校費用も負担してくれる。ボーナスやストックオプションも後払いにして何とかあなたに留まってもらおうと努力を惜しまない。日本を離れるのを嫌がる奥さんと週末ごとに会えるよう、金曜日にシンガポールを離れて月曜日の朝に帰ってくるファーストクラスの便を会社負担で提供してくれる。
これは何のことはない、あなた自身が、企業がこれだけのコストを払っても見合う稼ぎを生み出しているからであり、ミクロ経済の常識でいえばあなたにかけられるコストはあなたが生み出す限界収益に近づく。
日本国内でこんなことをすると“お行儀が悪い”と村八分にされるので暗黙の相互牽制が効いていたのだが、(その一例があの有名無実化されている、というか、単に日本企業の足を引っ張っているだけの就職協定だ。外資系企業はそんなものを完全に無視しているので、雇い放題である)、商品や市場と同様、人材獲得に関しても業界の垣根を越えてグローバル競争が熾烈化していることを採用側は肝に銘じなければならないだろう。
私は今回、グローバル志向が強すぎて地に足ついてないとお叱りを受けようと、また一部の勝ち組学生の話をしていて目線があってないとのご批判を受けようと、あえて高い目標を若い皆さんに向かって語ることにした。
ただし、これらは生き方のオプションの1つを提示しているだけであって、人それぞれに応じて、仕事が人生に占める重要度や金銭の必要度が異なることを私は尊重している。年間100万円の給料でも幸せに生きる選択肢はあるし、住み心地のいい日本国内だけで生きるほうが幸福な人も多いだろうし、社会に迷惑をかけないかぎり、どれだけ遊ぼうと楽に暮らそうと、我々がぶつぶついう筋合いはない。
ただ後になって「知らなかった!でも今さら後悔して頑張ろうと思っても遅い!」とならないよういくつかの視点を提供させていただいたまでなので、くれぐれも炎上なさることのないよう、お願い申し上げておきたい。
なお本稿の「稼げないあなたに、会社はもう投資しない」は、炎上必至なタイトルで、これまた編集長の提案を断りきれずにつけたタイトルだが、私は“頑張れるラッキーな境遇なのに、相応の緊張感が足りない人”を限定して指しているのであり、本当のブラック企業で不当にこき使われている人や、不運な境遇で社会の支援を本当に必要としている人を対象にしているわけではない点もご理解いただければ幸いである。
末筆ながら、お忙しい中、対談にご参加いただいた城繁幸さんには心から感謝申し上げます。
(撮影:今井康一)
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