あく抜けした「トルコ」は経済回復に向かう

絶妙なバランス国家で起きたクーデター未遂

毎月のようにテロの危機に晒されていたトルコは、日本のメディアから入ってくる情報とは明らかに違っていた。LINEで現場の肉声を聞く限り、たった4時間で事件は終結したというのだ。僕はこの数カ月というもの、トルコとの貿易取引に頭を悩ましていたから、次々に起こるテロ事件がトルコのカントリーリスクだと錯覚していた。「今回のクーデター事件も必ず裏ではIS勢力とのかかわり合いがあるはず」と思い込んでいた。しかし、それは違った。以下、私の疑問に答えてくれた現地の友人とのやり取りから、ポイントをまとめたものである。

① ギュレン師が本当にクーデターの黒幕なのか

たしかに、Fethullahグループすなわちイスラム指導者ギュレン師が(ギュレン運動とは1960年代に教育者フェトフッラー・ギュレンによるイスラム色のある市民運動である)率いる軍部のギュレン派によるクーデターであったようだ。エルドアン派は、反体制のギュレン派が今回のクーデターの首謀者であることはすぐにわかったようだ。クーデターが早期に解決したのは、エルドアン周辺の迅速なる情報共有と決断があったからだ。もともとエルドアン大統領は事件の直後には事態の収拾のためにアンカラに行く予定であったが、アカル参謀総長が人質となっている間、参謀総長代理を務めたウミット・ドゥンダール将軍が大統領に「今アンカラは危険なのでイスタンブールに来てください!」と言ったとのことだ。

スマホでの呼びかけに応えた市民パワー

② 大統領が軍部を掌握できなかったのはなぜか

何年か前から、トルコ軍の中でギュレン派が勢力を伸ばし、この時を待っていたようだ。8月に行われる予定のトルコ軍最高議院会で、士官らの昇進と辞任が決まるはずだったが、それを知ったギュレン派の幹部たちはクーデターを早めに起こし、参謀総長を人質にとって軍部から政権中枢の転覆を企てたようであった。そうなると、トルコ軍の上下関係が崩れ、軍規が守れなくなりエルドアン大統領にもどうしようもなかったと思われる。ギュレン師はかつてエルドアン大統領の支持母体であり、協力関係にあったが2013年の大規模汚職事件に絡んで関係は悪化。ギュレン師は米国に滞在し、彼もまたスマホで軍部の協力者に指令を送っていたとの観測も出ているが、ギュレン師は関与を否定している。

③ ギリギリのところで反乱軍を抑えられたのはなぜ

反乱軍の上下関係(命令系統)が崩れたからである。ウミット・ドゥンダール将軍がクーデターの直後に大統領に報告し、アンカラには行かずに事件終結のためにはイスタンブールに来るように忠告したことが事件解決のカギを握っていたようだ。また、エルドアンが静養先からスマホでスピーディーに発言したことが市民の団結力に繋がった。エルドアンを支持する群集が、勇敢にも軍部の戦車を取り囲み反乱軍に立ち向かったのである。一昔前なら、反乱グループが国営TV局を支配した時点で、政変は長期化したはずだ。

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