トルコの政情は一気に安定する可能性が出てきている。前回の選挙ではエルドアンへの支持が確立したと云われていたが、軍部の完全掌握には至らなかった。トルコでは政治と宗教と軍事が一定のバランス感覚の中で運営されている。「政教分離原則」とは国家(政府)と宗教の分離の原則であるが、トルコの父・アタチュルクは基本路線に世俗主義国家の確立のために国民国家のあり方に反しない範囲で宗教を押し込めた。政教分離とは言いながらも、宗教を厳格な国家管理のもとに置いたのである。一方、軍事力についても、軍部の政治介入が起こらないように国家安全保障会議を通じて適正な内閣への助言を行うようコントロールを強めた。1960年と1980年にクーデターは起きたが、その後は微妙なバランスの中にある。
複雑な舵取りが必要な国家運営
「絶妙なバランス国家」と言えるいくつかの根拠がある。人口7800万人、平均年齢が30.4歳という発展途上の大国トルコにとって、今回のクーデター事件は今までたまっていた軍部の不平不満のガス抜きとなったという見方がある。トルコが抱えている諸問題を羅列してみよう。「シリアの難民を300万人も受け入れ」「過激集団ISのターゲットにされ」「クルド族との友好的関係を保ち」「ロシアの戦闘機の撃墜事件の修復とロシアとの関係構築」「EU加盟の交渉を根気強く続け」「近隣の中東諸国との良好な関係も構築しなければならない」という、複雑な問題を多く抱える国家である。日本の優秀な官僚や政治家でも、トルコの為政者として任に堪えられる人材はそういないだろう。
この微妙なバランスをとってきたリーダーがエルドアン大統領である。「今回のクーデターはエルドアン大統領の自作自演」ではないかとのうわさが出たのは、あまりにも早く終結したことに加えて、大統領の独裁傾向が強まるという危惧の表れである。
EU加盟を目標に経済大国への道を走っているトルコは、今回のクーデター未遂で「あく抜け」したとみても過言ではない。過激集団ISの問題は残るし、一般的な日本人ビジネスマンは「さわらぬ神にたたりなし」と見ているようだが、私の意見はまったく逆である。トルコの現場を回って感じるのは、政治的、軍事的な問題が解決してくるといよいよ本格的な経済の回復が期待できるのではないか、ということだ。日本の産業界が中東やアフリカをターゲットにする時に、「地政学的優位性」「マクロ経済潜在力」「労働力の質の高さ」を持つトルコへの期待値は、ますます高まると考えられる。
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