クーデター未遂事件で膨らむ「トルコの危機」 政治・外交リスクの高まりで経済も薄氷踏む

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米国やEUなどはエルドアン政権に対して「法の支配」を遵守するよう求める姿勢を強めたい一方で、それによってトルコ側の姿勢が硬化して対中東戦略などに悪影響が及ぶ事態も懸念され、難しい状況に追い込まれているといえるだろう。

足元のトルコ経済は、長年にわたって高止まりしてきたインフレ率が、原油安の長期化に伴い頭打ちとなってきている。また、2015年11月の出直し選挙の際に与党AKPが選挙公約に掲げた大幅な賃上げによって家計部門の実質購買力が押し上げられているほか、隣国シリアからの大量の移民流入による需要の増加もあり、個人消費を中心とする内需が経済成長をけん引する状況が続いている。

その一方、インフレ率はピークアウトしているとはいえ、依然として中銀が定めるインフレ目標を上回って推移している。そのため、2014年以降は中銀が漸進的に利下げを実施したものの、企業による設備投資意欲は大きく後退している。さらに、輸出全体の4割超がEU向け、4分の1が中東向けであるなど、景気の不透明感が残る地域向けの割合が高い。加えて、このところはテロの頻発により、海外からの投資も急速に冷え込んでいる。

政府は足元の経済動向に関して「力強い成長軌道に乗っており、今後も構造改革を推進する」としている。だが、経済政策については、構造改革を主張する一方で、実際の内容はバラ撒き色の強いポピュリズム的なものに留まっていることを勘案すれば、中長期的な潜在成長力向上のために必要と考えられる構造改革が前進するとは考えにくい。

格付け機関の中にも、今回のクーデター未遂事件を受けて、同国の経済立て直しに向けた取り組みが難しくなるとして格下げ方向で見直す動きもみられ、先行きに対する不透明感につながっていると言えよう。

薄氷踏む対外収支、政治外交は経済にもリスク

同国はもともと、外貨準備高に対して短期(1年未満)の対外債務残高の規模が大きいなど対外的な収支バランスが極めていびつであり、国際金融市場の動揺に対して極めて脆弱な体質を有する。原油安の長期化によって経常赤字は縮小する動きがみられたものの、年明け以降における原油相場の持ち直しから、再び赤字が拡大することも懸念される。

一連のクーデターが未遂に終わり、早期に事態収拾が図られたことはよかったといえようが、今後の対応を通じて対外関係が悪化する事態となれば、そのことが経済に与えるダメージは計り知れない。トルコは今後、政治・外交のみならず、経済の面においても厳しい状況に直面することが避けられないであろう。

西濱 徹 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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にしはま・とおる

一橋大学経済学部卒、国際協力銀行(JBIC)で、ODA部門(現、国際協力機構(JICA))の予算折衝や資金管理、アジア向け円借款の案件形成・審査・監理やソブリンリスクの審査業務などを担当。2008年より 第一生命経済研究所、2015年4月より現職。担当は、アジアをはじめとする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析

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