クーデター未遂事件で膨らむ「トルコの危機」

政治・外交リスクの高まりで経済も薄氷踏む

2002年に当時のエルドアン党首の下でAKPが第1党となる総選挙が行われたが、その直前には軍と司法関係者を中心にAKPの解党を求める動きが出たほか、2007年に副党首であったギュル氏を大統領に選出しようとした際にも憲法裁判所が一度違憲判決を出している。エルドアン・AKPと軍・司法関係者との間では度々対立が表面化しているのである。

こうした中、2014年に同国で初となる公選制による大統領にエルドアン氏が就任したことで事態は大きく複雑化する。同国では大統領が国家元首を務めるものの、その立場は儀礼的な存在に過ぎず、首相の権限が極めて強い議院内閣制となっているが、10年強にわたる首相在任を経て『絶対的指導者』とも揶揄される強力な地盤を構築してきたエルドアン氏は、憲法改正を通じて政治的権能を大統領に集中させることで「大統領制」の導入を目指してきた。

軍や司法関係者の中には上述の経緯からエルドアン大統領とAKPをよく思わない勢力がある一方、エルドアン大統領及びAKPは選挙を通じた民主的な手続きによって選ばれているため、今回のクーデターが広く国民からの支持を得られず未遂に終わったと考えられる。

強権姿勢のエルドアン政権と欧米のジレンマ

隣国シリア及びイラクの不安定な情勢が中東全体の不透明要因となっている中で、今回のクーデターは未遂に終わり、さらに国民の多くが政権を支持する姿勢が大きく前面に出たことで、トルコまでもが分裂する最悪の事態は避けられた。

ただ、当局は上述のように今回のクーデター計画に直接関係した軍関係者のみならず司法関係者のほか、警察官や地方自治体幹部などを含めると1万人以上の身柄を拘束しているとされており、エルドアン大統領の下で進められてきた強権姿勢が一段と強まることは避けられないと予想される。

政府がエルドアン大統領及びAKPに対して批判的な勢力に対する締め付けを一段と強めれば、米国やEU(欧州連合)などとの関係が悪化する可能性があることには、注意が必要である。

トルコは長年にわたってEU加盟を目指して協議してきた。2002年にはその要件のひとつとされる死刑制度を廃止するなどの動きをみせてきたが、エルドアン大統領は早くも混乱収拾に向けて死刑制度の復活を目指す考えを明らかにしている。EU加盟が頓挫することは避けられないとみられる。

その一方、EU側にしてみれば、移民及び難民問題がEU分裂の引き金になることが懸念される中で、今年3月に両者の間で合意された難民及び移民に関する扱いが、トルコとの関係悪化により反故になることは、避けたいところである。

また、シリアにおけるIS(通称「イスラム国」)掃討作戦にはNATO(北大西洋条約機構)が大きな役割を果たしているが、現時点でNATO内においてトルコ陸軍は米国に次ぐ存在感を示している。仮にエルドアン政権による強権姿勢の強まりを理由に、トルコがNATOからの離脱を余儀なくされる事態となれば、IS掃討作戦自体にも大きな悪影響が出ることは必至とみられる。

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