鳥貴族が快進撃を続けられる本質的な理由 その儲けの構造を抽象化思考で読み解く

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そこで問題になるのは「うまい」と「安い」を両立することが非常に難しいことだ。多くの居酒屋は食材を一括大量購入し、セントラルキッチンで加工した上で、店で最終調理するが、低価格路線を行くと味が落ちてしまう。このジレンマの一つの解決法が「メニューを鳥肉料理中心に思い切って絞り込む」という戦略なのだ。考えてみればハンバーガーなどのファストフードのほとんどがこの戦略を取っているが、居酒屋は多様な料理が食べられることが売りだったので、このような発想が生まれにくかったのだろう。

「いきなり!ステーキ」も本質は同じ

鳥貴族の戦略は、「鶏肉料理中心でメニューの幅が狭い」というデメリットがあっても、抜群においしくて安くすれば、通い続ける客がいることを利用している。だから店舗は1階以外のフロアにするとか、アルバイトを多用するというコストダウン策を取りながら、鶏肉は高価な国産品を店内で串打ちしておいしくしている。コストを節約するところは徹底的に節約しながら、金をかけるところは思い切ってかけているのだ。

こうして因果関係マップを何度も眺めていれば、その中の主要な施策が抽象化されて脳に記憶される。そして、まったく別の場面で、(抽象レベルで)こうした記憶の中の施策と同じ構造を発見すると、脳の連想回路が働き、思い出すことができる。

たとえば、ご存じの方も多いと思うが、「いきなり!ステーキ」という、立ち食い形式ながら、一般のレストランの半額程度でおいしいステーキが食べられる人気店がある。店内にはオープンキッチンの真ん中に大きなガスグリルがあり、そこでステーキを焼いている。

そこで「あ、これは鳥貴族と同じだ。メニューはステーキだけに絞っていて、専用グリルで素早く何人分ものステーキを焼いている。注文してから料理が出る時間が早いから店の回転も早いんだろう」「あ、調理係が大きなブロック肉からステーキを切っている。肉は小さく切り分けてから料理する時間を短縮するほうがおいしくなるんだろうか」といったことが次々と連想できる。こうしたアナロジーによる連想を活性化させるのが、因果関係マップをつくる本当の狙いだ。

鳥貴族の施策は、製品の企画にも使える。鳥貴族のライバルの居酒屋チェーンは料理の種類が多いが、味はそこそこだ。これは、商品でいえば、機能はてんこ盛りだが、どの機能もそこそこの出来具合・性能ということだ。

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