鳥貴族が快進撃を続けられる本質的な理由 その儲けの構造を抽象化思考で読み解く
拙著『深く、速く、考える。「本質」を瞬時に見抜く思考の技術』でも詳しく解説しているが、人間の脳には、表面上のことに気を取られて、「本質的な深い構造」には気づきにくい性質がある。たとえば店の看板や雰囲気、店員の振る舞いなどに気を取られて、その店がどんな「儲かる構造(ビジネスモデル)」で成り立っているかまで思いが至らない。
しかし、現場を見て「儲かる理由」を考え、そのビジネスモデルを抽象化していくことで、会社や業界、ビジネス環境を飛び越えて使えるノウハウを見つけることができるし、そうしたことを繰り返すことで、「具体と抽象を自由に行き来する能力」が鍛えられるのだ。蛇足ながら、同業他社や環境が同じ会社がすでにやっていることを今さら後追いしても、価値ある思考は生まれない。
たとえば、焼き鳥を中心としたメニューを280円の均一料金で出す居酒屋チェーンで、4月に東証1部に指定替えされたばかりの「鳥貴族」を見てみよう。
「早い・うまい・安い」を可能にした工夫
今年で創業30周年を迎える鳥貴族は、2014年にジャスダックへ上場すると、2015年には東証2部に市場変更し、そして3カ月前に東証1部へと急速にジャンプアップした。今月初めに発表された6月の既存店ベースの売上高は前年同月比10.4%増。過去5年で売上高は3倍、直営・フランチャイズを含めて現在479店舗と、500店舗に迫っている。赤字続きで苦戦する居酒屋大手、ワタミとは対照的な快進撃だ。ちなみに社長の大倉忠司氏は、ジャニーズ所属のグループ「関ジャニ∞」の大倉忠義さんの父親でもある。
鳥貴族が連日、客で賑わう人気店に成長した理由は、「早い・うまい・安い」の三拍子がそろっていることだが、その要因は何だろうか。
まず「料理のメニューを焼き鳥中心に絞りこんでいる」ことが大きなポイントだ。冷凍品となる海外産の鶏肉を使わず、国産の鶏肉を使い、焼き鳥の串刺し(串打ち)を昼間に店の厨房で行っているので、素材も新鮮。焼き鳥グリルは自社開発で、赤外線を使って均一においしく焼ける。また同時に大量に焼けるので、注文してから料理が早く出てくる。
こうしたことを挙げていくと、次にこのような疑問が浮かんでくる。「鳥貴族は国産鶏肉を使ったり、店内で串打ちしたりするなどコストが高いことをしながら、どうして280円の均一料金が実現できるのだろうか?」
その答えは、まず薄利多売、つまり「客の回転を増やして店舗面積当たりの売り上げを稼ぐこと」によって、安い価格でも儲かるようにしていることだ。
コストダウンについては、ほかにも多くのポイントがある。店舗を1階以外の階に立地させて家賃を節約していること。メニューは鶏肉料理中心で、大量の鶏肉を使うため、小口ユーザーに比べて4割も安く鶏肉を仕入れられること。メニューが絞りこまれており、しかも専用グリル器を使い、誰でも均一においしく焼くことができるため、接客係だけでなく、調理もアルバイトを多用して人件費を下げていることなどもポイントである。
これらのポイントがわかれば、次は、本質的な「儲かる構造」を見抜くフェーズに入るが、ポイントとなる「原因と結果(因果関係)のつながり」が多いほど、ビジネスの場で実際に使える知識になる。これが「知識が深くなる」ということだ。
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