「円高で訪日客が減る」が絶対に間違いな理由 日本には為替に左右されない魅力がある

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これまで主張してきたように、観光の基本は多様性ですので、この多様性によって、為替の影響を最小限におさえるということも当然、可能です。

近隣諸国の観光客は比較的、所得の低い人の比率が高くなります。たとえば中国人団体ツアーである程度は地元が潤ったというところもあるでしょうが、このマーケットは相対的に、為替に敏感です。

外国人観光客誘致の本質は、近隣諸国からの観光客と遠い国からの観光客を、できるかぎりバランス良く誘致することです。遠い国からの観光客は相対的に所得が高い傾向が強いので、為替変動にそれほど敏感に反応しないことが確認されています。

その一方で、遠くからわざわざ訪れている人々なので、低所得観光客よりも、要求する満足度が高くなる傾向があります。そうなると、やはりこちらも魅力ある観光資源によって、ひとりあたりの滞在時間をのばし、客単価を上げていくのが進むべき道だという結論に至ります。

つまり、今の日本のような人口減少国家では、高付加価値のサービスを提供し、顧客満足度を上げていくという観光戦略こそが求められるのです。

日本はフランスに匹敵する観光先進国になれる

かつての「ブーム」を仕掛けて数を稼ぐという薄利多売的なモデルは、人口急増国家ならではの古いモデルです。それは言い換えると、とにかく情報発信をすればいいという時代が終焉を迎え、観光資源の魅力を磨けば観光客が増える時代になったということです。観光資源の魅力を磨けば、単価を上げて収入を増やせる時代と言ってもいいかもしれません。

その「観光資源の魅力」があれば、多少の円高であっても耐えられるはずだ、と私は考えています。根拠はフランスです。「観光大国」としてさまざまな魅力を有するフランスの観光客数は、データで比較をしてみても、あまり為替の動向に左右されていません。

拙著『新・観光立国論』などで何度も述べているように、日本の観光資源は、フランスに匹敵するポテンシャルがあります。つまり、日本は為替で一喜一憂するような国ではないのです。

いまやるべきは「円高だから」などと言い訳をしているのではなく、持てる観光資源の魅力を磨き、人口減少国家ならではの「観光先進国」を目指していくことなのではないでしょうか。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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