ゴルフ界に激震「テーラーメイドはどこへ」 トップブランドがなぜ売りに出されるのか

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アディダスの発表は「グループとしてはゴルフ事業については、革新的なゴルフシューズとアディダスブランドによるゴルフウェアに特化し、その他のゴルフ事業のテーラーメイド、アダムス、アシュワースの各ブランドは売却する」という内容であった。アディダスグループのヘルベルト・ハイナーCEOは「テーラーメイドは大変価値のあるビジネス。しかし、今はコアビジネスであるシューズとアパレルマーケットに注力するとき」と売却理由を説明している。直近の四半期の業績を見てもグループとしては前年比22%伸びているが、テーラーメイド・アディダス・ゴルフは前年比1%減少している。

アディダスグループが今後注力する事業のシューズ・アパレルは消耗品である。経営の観点から見れば、安定的な需要が見込め、シェアを持っていれば売り上げ、利益を確保できる。一方、ゴルフ用品はというと、とりわけクラブは嗜好品である。元々需要が旺盛にあるというわけではなく、マーケティング手法を駆使するなど、さまざまな工夫をしながら需要を掘り起こさなければならない。

その典型を、テーラーメイドが行っている手法に見ることができる。多くのプロゴルファーと契約をし、トーナメントで活躍してもらい、その商品性能を証明し、ブランド認知を広めトップダウンでその商品の魅力を顧客にアピールしていく――。また、メディアに広告を投入、試打会などを実施し、商品需要を掘り起さなければならない。そのためのコスト・時間もかかる。

予測を間違えば在庫の山となる

また、嗜好品であるから、プロの活躍で自分も同じものを使いたいとか、ゴルフ仲間が新商品で飛距離が伸びているのをみると、購買欲求が高まり、それが波及して爆発的な需要が生まれ大ヒット商品となることもある。逆に、他社商品との比較も含めて、顧客にとって魅力的な商品でなければ、販売不振で在庫の山を築く危険性もある。

事業としては安定性に欠ける部分があることも事実だ。さらにゴルフクラブはルール規制で、反発係数0.830以下、ヘッド体積460cc以下、クラブ長さ48インチ以下の規制があり、新たな革新が生まれづらくなっている。もちろん、この規制を乗り越えてこその技術開発ではあるが。このような理由から、アディダスは見切りをつけたのかもしれない。

では、それでもゴルフ事業に多くの企業が参戦し続けているのはなぜか。

ゴルフというスポーツ事業そのものが持っている、活動的で前向きなイメージがあるのかもしれないし、ゴルフの面白さに引かれるからではないだろうか。あるいはシンプルに「ゴルフが好き」だからかもしれない。こういった精神をあまり持たない企業にとっては、ゴルフ事業に魅力を感じにくいかもしれない。単に採算だけを考えると簡単ではないからだ。

はたして、テーラーメイドはこれからも革新的な製品を生み続けることができるのだろうか。そのDNAが引き継がれるためにも、ゴルフを愛する企業、企業家の手で取り組んでほしいと願わずにいられない。

嶋崎 平人 ゴルフライター

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しまさき ひらと / Hirato Shimasaki

1976年ブリヂストン入社。1993年からブリヂストンスポーツでクラブ・ボールの企画開発、広報・宣伝・プロ・トーナメント運営等を担当、退職後、ライターのほか多方面からゴルフ活性化活動を継続。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。

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