ソニーがロボット技術を再結集する真の狙い 平井一夫社長が語ったイノベーション戦略
たとえば、腕時計を見てください。機能は時間を知ること以外にありません。しかし、一番大きな価値となっているのは、デザインや質感、操作感といった“感性”の部分です。その違いだけで業界が成立している。
――時計業界のたとえ話は、本来のソニーがまさに持っていた差異化領域では。
ずっと昔から、その領域でソニーは勝負してきたはずです。しかし、エレクトロニクス業界が変容する中で、どこかで価格指向、多機能指向へと振れていったということがあったのかもしれません。社長に就任以来、そこの部分には特に注意をはらって軌道修正してきました。感性を重視することで感動を呼び起こし、メーカー視点ではなく顧客視点の価値を重視する姿勢です。
それはたとえば、カメラのRXシリーズにおいて頑なにデザインを変えないこと。テレビにおいてケーブルが見えないよう設置できることなど、かなり細かなところで浸透し始めました。ケーブルに関しては、実際にCESの設営現場を視察して、ケーブルが見えるところを指摘し、改善させるといったことを繰り返して、どこから見回してもケーブルが見えない完璧な設置と佇まいを実現し、商品にフィードバックしています。
RXのデザインやブラビアのケーブル処理などは、最初は“社長がうるさいから、とりあえずやろう”だったかもしれません。しかし、実際に徹底してやらせて、それが評価されることでエンジニアたちも、“もっと徹底してこだわれば結果として表れるかも”という意識を持つようになりました。
分散したロボット技術を再結集する
――コンシューマ向けのエンターテインメントジャンルで、AIやロボティクス事業を展開とのことですが、このジャンルはかつて、AIBOで取り組んだものでした。事業としてはなくなってしまいましたが、現在でも強みとして残っている部分はあるのでしょうか。
技術という面ではメディカル事業子会社など、さまざまなところに分散して残り、多様な分野で応用されています。それらを集約して“ワンソニー”の元に再結集させます。
――AIにしろロボティクスにしろ、平井社長の言う“ラストワンインチ”の商品群がネットワーク化され、AIや家庭用ロボットと連動することで価値を相互に高める仕組みなどは考えていますか。
事業としては個別のプランには落とし込んでいませんが、そうしたことは視野に入れて検討しています。ある程度の部分はオープンにして、他社の製品もソニーの製品やサービスと接続できるようにしつつ、ソニー製品ならではの付加価値も追う。さまざまな意見が出ていて、まだ結論は出ていません。
ただ、ひとつ言えるのは、家庭用ロボットもそうですが、単体のハードウエア売り切りでは、ラストワンインチの強みも生かしきれません。ハードウエアを販売することで、それを“リカーリング”(継続性)ビジネスにつなげ、次に何らかの製品を購入するときにもソニー製品を選んでもらえるリレーションシップを作っていきます。“物販”を最大化するのではなく、ラストワンインチの強みをネットワークとして広げていくことが重要です。
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