グローバルに進む、タクシー運転手のハイスペック化
まず皆様に申し上げたいことは、フランスの景気は、大変悪いということだ。これは寒い欧州の冬と太陽になかなかお目にかかれない天気と相まって、年がら年中太陽と緑が光り輝き好景気に沸くシンガポールとの対比が著しい。また情報源はタクシーの運転手さんか、と怒られそうだがそのとおりで、今回はアルジェリア人のタクシー運転手さんアリさん(仮名)に登場していただこう。
アリさんは数年前まで、バンコクとパリの間を行き来するフランスファッションの貿易会社を営んでいたが、リーマンショック以降景気が低迷、さらにフランス政府がタイで製造されるフランスブランドのニセモノ取り締まりキャンペーンを強化したため、会社閉鎖に追い込まれてしまった。ここ数年はタクシーの運転手をしている。彼に言わせるとフランスの経済はもはや死んでおり、失業者であふれかえっているという。
ちなみに最近東京でタクシーに乗ったとき、その運転手さんが某大手財閥系商社を退職に追いやられた方で、さまざまな国々でのプロジェクトの話をしてくれて大変面白かった。
そういえば先月韓国に行ったとき乗ったタクシーの運転手さんも、日本語と中国語を流暢に操っていた。聞けば、日本の大手半導体製造装置メーカーで働いた後、独立して中国に工場を建てたものの、倒産してソウルで運転手をしているという。最近グローバル経済の停滞と相まって、どこの国でもタクシー運転手さんのハイスペック化が急速に進んでいるようである。
親愛なる読者の皆様におかれましても、タクシーに乗られたときはぜひ運転手さんにいろいろ聞いて、耳学問に励まれることをお勧めする。そうすることで日本の格段に高いタクシー料金を、単なる運賃だけでなく世界経済や社会問題を学ぶ受講料とすることができるだろう。
移民が支えるヨーロッパ経済
さて、アリさんはフランスでのムスリム差別に大変憤っていた。サルコジ前大統領にしてもオランド現大統領にしても、右派だろうが左派だろうが政治家は景気が悪くなると移民に八つ当たりするような言動を繰り返し、ムスリムへの風当たりが厳しいと。特にムスリムの女性がスカーフで顔を覆うのを禁じるなど、フランスは自由の国との歴史的評価はすでに過去のものになった、と憤慨する。
ちなみにフランス国内の移民人口は全体の10%に達しており、経済はアルジェリアやモロッコからの移民なしでは成り立たなくなっているのだが、社会を陰で支えてくれている移民の方々に雇い主が失礼で傲慢な態度をとっている。そうした光景は、香港でもシンガポールでも中東でもどこでも見られる。
ちなみに一足お先に高齢化が進んでいる国で移民政策が遅れているのは日本くらいであり、ポルトガルにはブラジル人が、ドイツにはトルコ人、フランスにはアルジェリア人、、というようにヨーロッパ各国で移民により労働力(いわゆる3K労働)を埋める動きが進んでいる。
景気が上向いて労働力が不足しているときだけ彼らにお願いして来てもらって、景気が悪くなるとリストラして本国に帰れというのだから随分ひどい話だ。いつか日本で移民に来てもらう日が来たら、ぜひ彼ら・彼女らの文化を尊重して段違いのおもてなし精神と国際的な人権感覚で、国際的に移民希望者から憧れられる国になってほしいものである。
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