まだ仕事が未熟だからこそ、後輩指導を! 「姉さんが言わはる前に、気ぃつかんと」

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「姉さんが言わはる前に、うちが気ぃつかんと」

経験2年目の舞妓さんが、お座敷で後輩の新人の舞妓さんのかんざしを挿し直してあげていました。「どうして?」と尋ねた私に対してこの舞妓さんが言ったのが、

「姉さんが言わはる前に、うちが気ぃつかんと」(先輩が新人の舞妓さんを注意する前に、自分が気がつかないといけないんです)

という言葉でした。後輩の指導を積極的に引き受けるだけでなく、先輩よりも先に不適切なことを見つけて、指導することが自分の役割だと、18歳の舞妓さんが自覚していたのです。

新人でも、十分な戦力でもないこの時期だからこそ、周囲への情報発信力(後輩への指導も仕事に関する情報の発信ですよね)を磨くために実践を重ねることは、長期的なキャリア形成を考えると、とても重要です。

後輩の能力を伸ばすことに貢献できたことは、周囲からの評価を高めることにもつながります。そして、よりキャリアを積んで、いよいよ本格的に後輩の指導をするときに、必ず役立ちます。

経験2年目の舞妓さんは、後輩へ注意することは、後輩を大切にすることと同時に、自分にとっても意義ある行為だと理解していたのです。ですから、積極的にかつ自然に、後輩を思いやった行動ができ、言葉にできたのです。

注意することの内容が適切であることは重要です。しかしそれよりも、実は注意するという行為自体が、後輩のためにもあなたのためにもなるのです。

後輩は、あなたから注意されることで、自分を気にかけてもらっていると感じます。もちろん感情的になったり、高圧的な態度で注意してはいけませんが、あなたが注意しようかどうか迷うくらい後輩のことを気にかけているのであれば、その気持ちは必ず後輩に伝わります。

『舞妓の言葉』では、現代につながる伝統世界の言葉を紹介している。

また、注意すること自体があなたのためになるのは、これまで説明してきたとおりです。

このように、伝統世界の言葉が、現代に見事につながります。意外に思われるかもしれませんが、意味や智恵があるからこそ、今を生きるサービス・プロフェッショナルである舞妓さんたちに、言葉が受け継がれているのです。

次回も、環境変化の激しいビジネス環境で、しなやかに自らを磨きたい、そんな皆さんのお悩みを取り上げて、考えていきます。
 

西尾 久美子 京都女子大学現代社会学部准教授

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にしお くみこ / Kumiko Nishio


京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期修了、博士(経営学)。神戸大学大学院経営学研究科助手、神戸大学大学院経営学研究科COE研究員を経て、2008年 4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)、『舞妓の言葉』(東洋経済新報社、2012年)などがある。

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