「姉さんが言わはる前に、うちが気ぃつかんと」
経験2年目の舞妓さんが、お座敷で後輩の新人の舞妓さんのかんざしを挿し直してあげていました。「どうして?」と尋ねた私に対してこの舞妓さんが言ったのが、
「姉さんが言わはる前に、うちが気ぃつかんと」(先輩が新人の舞妓さんを注意する前に、自分が気がつかないといけないんです)
という言葉でした。後輩の指導を積極的に引き受けるだけでなく、先輩よりも先に不適切なことを見つけて、指導することが自分の役割だと、18歳の舞妓さんが自覚していたのです。
新人でも、十分な戦力でもないこの時期だからこそ、周囲への情報発信力(後輩への指導も仕事に関する情報の発信ですよね)を磨くために実践を重ねることは、長期的なキャリア形成を考えると、とても重要です。
後輩の能力を伸ばすことに貢献できたことは、周囲からの評価を高めることにもつながります。そして、よりキャリアを積んで、いよいよ本格的に後輩の指導をするときに、必ず役立ちます。
経験2年目の舞妓さんは、後輩へ注意することは、後輩を大切にすることと同時に、自分にとっても意義ある行為だと理解していたのです。ですから、積極的にかつ自然に、後輩を思いやった行動ができ、言葉にできたのです。
注意することの内容が適切であることは重要です。しかしそれよりも、実は注意するという行為自体が、後輩のためにもあなたのためにもなるのです。
後輩は、あなたから注意されることで、自分を気にかけてもらっていると感じます。もちろん感情的になったり、高圧的な態度で注意してはいけませんが、あなたが注意しようかどうか迷うくらい後輩のことを気にかけているのであれば、その気持ちは必ず後輩に伝わります。
また、注意すること自体があなたのためになるのは、これまで説明してきたとおりです。
このように、伝統世界の言葉が、現代に見事につながります。意外に思われるかもしれませんが、意味や智恵があるからこそ、今を生きるサービス・プロフェッショナルである舞妓さんたちに、言葉が受け継がれているのです。
次回も、環境変化の激しいビジネス環境で、しなやかに自らを磨きたい、そんな皆さんのお悩みを取り上げて、考えていきます。
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