TAFに到達すれば、まもなく炉心溶融が始まることは、原子力事業者であれば容易にに分かることだ。しかしこの内容は東電の社内だけにとどめられ、東電を監督する原子力安全・保安院(当時)にも伝えられなかった。結果として、保安院経由で東電から情報を入手していた官邸にもこの情報は入ってこなかった。このことは4月19日の衆議院環境委員会で、参考人として出席した廣瀬社長からも東電が情報を送っていなかった事実を確認している。
その一方で、東電は間違った情報を官邸に報告してきた。水位計が壊れていることに気づかずに、事故当日の11年3月11日22時に「燃料棒の上の450ミリメートルまで水がある」との報告が来た。だから私はその時点では炉心溶融が起きているとは認識していなかった。
当時、原子炉格納容器内の圧力が異常に上昇していた。もし格納容器内が爆発したら大変なことになると思い、私は住民に避難を指示した。もし3月11日17時15分の時点で東電から炉心溶融の予測についてきちんと報告されていれば、もっと早期により広い範囲で住民に避難を指示していた可能性が大きい。
清水社長、武黒フェローの調書は公表されていない
――当時、官邸には原子力の専門家として東電から武黒一郎フェローが来ていた。炉心溶融問題でも武黒氏が事情を知るキーパーソンであるとの認識はお持ちですか。
私が東電の中の事情を推測することはできない。ただ、武黒氏といえば、原子炉への海水注入をめぐる問題で、東電の社内テレビ会議を通じて福島第一原発の吉田昌郎所長に中止の指示をした人物。吉田氏は本店に聞こえるような大きな声で現場に「止めろ」と言った一方、実際には海水注入を続けさせる芝居を打った。原子力の専門家である武黒氏がなぜ止めろと命じたのかいまだに理解できない。
この問題をめぐっては11年5月20日に現首相の安倍晋三氏がメルマガを使って私を攻撃してきた。翌21日の朝刊では読売新聞や産経新聞が「首相意向で海水注入中断」(読売)、「『首相激怒』で海水注入中断」(産経)と報じ、安倍氏のコメントも記事中で引用した。この問題は自民党による攻撃から菅内閣への不信任案提出につながった。しかし、後になってその内容が間違っていたことが明らかになった。武黒氏が官邸のせいにして吉田氏に中断の指示をしていたこともわかった。
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