日本銀行は民意に応えられるか? 市場動向を読む(為替)

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ただ、国民(大衆)は実質購買力を理解できるような合理的な存在ではない。貨幣錯覚を持つ非合理的な生き物である。「2%の賃下げとデフレ」よりも「2%の賃上げとインフレ」の方に高い経済価値を見いだす。今回の総選挙での自民党の圧勝は、国民の間に渦巻く円高デフレに対する怨嗟の声の政治的な実現である。

財政政策もそうだが、金融政策もこうした非合理的な国民のために行われるものである。白川総裁にしてみれば、安倍総裁の要請に真摯に耳を傾けることは、政治圧力に屈することではなく、民意に応え、民主主義のルールに従うことなのかもしれない。

ところで、その日銀は先週20日の金融政策決定会合で、3つのことを発表した。(1)資産買入等の基金の10兆円増額(91兆円→101兆円)を決定。(2)銀行貸出増加支援ファシリティの詳細を発表し、15兆円程度の資金供給に寄与するとの考えを再確認。(3)白川総裁が物価安定の見直しを指示し、来月21~22日の決定会合で執行部が報告することになった。

量的緩和の円高是正効果には疑問

言うまでもなく、市場の最終的な関心事は金融緩和規模にある。だが、筆者は日銀が量的緩和規模を拡大すれば、円高是正に繋がるとの考え方には懐疑的だ。日米のベースマネー比率とドル円相場の推移を示したものは、市場では「ソロスチャート」と呼ばれている。その昔、著名投資家のジョージ・ソロスが円相場を見る際に用いていたと言われるからだ。確かに両者には長期的な趨勢を一致させる傾向がうかがえる。

だが、01~06年に日銀が量的緩和を行っていた、肝心の期間が典型的な例外となっている。この時は日銀が量的緩和を行ったにもかかわらず、円高が進行した。ITバブル崩壊後の米国の経済低迷に対処するために、FRB(米国連邦準備制度理事会)が果敢な利下げを行い、ドル安が進行したからだ。そのドル安円高に対抗するために日銀が量的緩和を拡充したが、FRBの利下げに伴うドル安円高には、対抗する術もなかった。

一方、09年以降に行われたFRBの量的緩和策は、一見すると効果を発揮してきたかのように見える。ただ、この間、ドル円が米市場金利との相関を強めていたように、FRBの金融緩和の「量の部分」が本当にドル安圧力を生んだのかは不透明だ。ドル安をもたらしたのは米国の金利低下であり、量的緩和ではないかもしれないからだ。

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