前回東京五輪を成功させた池田勇人の信念 真のリーダーシップとは何か

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実は新幹線に対してもオリンピックと同様に反対の声は大きかったのです。今では新幹線のない日本など考えられませんよね。でも建設当初は「世界の三バカ事業」とされた万里の長城、エジプトのピラミッド、戦艦大和に並んで新幹線は「四バカ」呼ばわりされ、評論家やマスコミからさんざん叩かれました。ところが、いざ新幹線ができればそのとき反対していた人たちは反対したことなんて忘れ、狂喜して利用するわけです。

日本人は良きにつけ悪しきにつけ、熱しやすく冷めやすいのでしょうか。だから今オリンピック開催を冷ややかに見て、叩いている人も、恐らく開催が直前に迫ってくれば夢中になっているのではないかと思いますよ。

池田勇人は不器用で真っ直ぐで清貧

――最近、田中角栄が再び世間から注目されているようです。田中角栄と比較して、池田勇人の魅力、あるいは評価できる点はどんなところでしょうか?

まず、その田中角栄を引き上げたのが池田勇人です。決して彼を高く評価していたわけではありません。田中を大蔵大臣に据えたのも池田ですが、むしろ田中なら後ろでいくらでも操れる傀儡大臣にできたからです。

池田の魅力は一途で真面目、ときに不器用なぐらい本当に真っ直ぐなところです。私利私欲みたいなものがなく、この国の潜在力を信じ、良くしたいという使命感にあふれていました。その使命感はどこから来ているかといえば、戦後の混乱期の現場を体験していたからです。若いころ大蔵省主税局で働くなかで、終戦直後の渾沌とした闇市を歩きまわり、徴税業務に励みました。だから、政治家になって国民のために減税をしたいと願うのです。

私は以前、高橋是清の生涯を描く『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』を書いていますが、是清は晩年、財政規律を守ろうと、際限なく膨張する軍事費削減を目指しました。そのことが軍部の反発を買い、2・26事件で命を落とすことになります。

その後、蔵相に就任した馬場鍈一は、軍事体制の強化のために大規模な増税を行い、90%というとんでもない課税率の財産税まで誕生させます。増税の流れは戦後も続き、国民の担税力は極限まで来ていることが、池田にはわかっていたのです。だからこそ、自分が大蔵大臣になったときには絶対に減税をすると決め、アメリカのジョゼフ・ドッジとの交渉でも、何とか減税をもぎ取ろうと必死になったわけです。

執筆の過程では、ご親族はじめ、池田勇人を直接に知る人に取材をしています。「清貧」という言葉がありますが、まさにその通りだったという声もありました。一方の田中角栄は、札束を新聞紙に包んで配ったり、戦後最大の疑獄とわれるロッキード事件で逮捕された人物です。人情家で人心掌握術に長けていたためメディアには人気がありましたが、お金に対してはダーティなイメージが拭えません。

反対に池田は、数字に滅法強く、優秀な部下に恵まれていましたが、不器用であるがゆえに、つい本音を口走ってしまい、メディアに曲解され、叩かれたことが何度もありました。でも、そんな不器用さが、池田の魅力だと私は感じています。最近の政治家は口先だけ、弁は立つけれど現場を知らず、実務体験がない人が多い。

でも、口だけで国は動かせません。強い信念と誠実さ、「不器用なぐらいの真っ直ぐさ」が必要だと思うんです。志を愚直に実行していく。まさに池田のような人です。

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