熱の伝播と、ものづくりの底力
プロジェクトは進み、約1ヶ月間の現地業務もあと1週間という金曜の夜。試作品の製作に取りかからなくてはいけない最終段階で、どうしても解決できない部分があり、山本さんとチームメンバーは頭を抱えていた。しかし打つ手が見つからない。するとメンバーの一人が、「社内に解決できる人がいるんじゃないか」と発案した。
そこで思いついたのが、社内でも有名なあるベテラン技師だった。普段なら突然仕事を相談できるような相手ではなかったが、この際やってみるしかないと、ダメもとで助けを求めたのだ。
程なく会議室に入って来たのはなんと、連絡した技師を含む、部長職のベテラン技師4人だった。若手社員たちの必死な様子に心を動かされ、金曜の夜21時に近かったにもかかわらず集まってくれたのだ。そして4人はあれやこれやと議論しながら、そこにあった紙やセロテープで模型を作っていき、「こうすればコストは下がるぞ」と解決案を出してくれた。そこにいた若手社員たちが目頭を熱くしたのも無理はない。大先輩たちがイキイキと手を動かしながら見せてくれたのは、会社の持つものづくりの底力だったからだ。
ベテラン技師たちのアイデアを得たチームメンバーたちは、その後は不眠不休で作業を続け、ついに製作費を16%削減することのできる試作品を完成させた。現地の社会起業家の「地域をよくしたい」という熱が、山本さんに伝わり、日本のチームメンバーを動かし、うねりとなって企業内の人々を巻き込み、最後にはベテラン技師たちをも動かしたのだ。
自分たちも予想をしていなかった展開だったけれど、まさにこんなことが実現したくて起業したと思えるような、最高の出来事だった。
帰国した山本さんは、こんなことを言っていた。
「ベトナムのダナンに、パナソニックの創業期の景色が見えた気がするんです」
ソーラークッカーという製品を作ることで事業者は収入を得ることができ、購入者も病気を心配せずに料理ができるようになる。そして社会からは病気も森林伐採も減っていく。古くから伝わる近江商人の「三方良し」の精神だ。これこそがものづくりの原点であり、まさにパナソニックの創業の理念に通ずると山本さんは感じたのだろう。彼が帰国して真っ先にしたのが社史を読み返すことだったというのが、それを物語っている。
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