実際、2008年にリーマンブラザーズの破綻が発表された翌日、リーマン債に投資していた米MMF、リザーブ・プライマリー・ファンドが深刻な事態に見舞われた。総資産の減少に伴い、額面割れを起こしたのだ。取り付け騒ぎの危機が迫ったとみた米政府の対応は素早かった。MMFの元本保証プログラムを創設したのだ。
同ファンドは額面割れを起こしたものの、1ドルに対して0.97ドルを支払う能力はあった。それでも前例がないほどの金融支援が実施された。その背景には何があったのか。それは閉店した銀行の周辺に憤った民衆が列を成すという、1930年代の大恐慌の記憶であろう。
2008年には大恐慌の恐怖が甦った
大半の人々は1930年代にはまだ生まれていなかった。その上、物価の安定が長く維持されていたため、インフレによって正味の価値が毀損されることの恐ろしさは忘れられていた。
しかし、2008年には、大恐慌に関する風説があらゆる領域で再び飛び交い、金融恐慌や閉店した銀行の周辺に憤った民衆が列をなす光景が生々しく人々の心に甦った。
このため、MMFの額面割れ自体は比較的小規模な出来事であったにもかかわらず、民衆も政府も大きく反応したのだ。政府は、大恐慌はあくまで大昔の話であって再現はあり得ない、と繰り返し説明していたようだ。
その後、金融規制は年々改善されたが、本質的に不安定な市場にはリスクが潜んでいる。当局に求められるのは、過去の記憶による対処だけでなく、市場の変化を読み取る不断の努力のはずである。
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