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先進国の中央銀行に対し、手厳しい批判が続いている。多くはリーマンショック以降、中央銀行が自らの権限を逸脱する積極的な金融政策を取りすぎたとして、経済にダメージを与えているという批判だ。しかもリバタリアンと新マルクス主義者といった、本来ならイデオロギー的に相いれない陣営が声をそろえて批判している。しかし、こうした批判は的外れといってよい。
多くの人が理解していないのは、当然ながら中央銀行はインフレ抑制だけでなく、長期的な物価安定にも責任を負っている、ということだ。物価水準は人間の体温と同様、高すぎても低すぎてもいけない。そのため中央銀行は、供給不足が引き起こすインフレと戦う際も、需要低迷に起因するデフレと戦う際も、同様に積極的な姿勢を取る必要があるのだ。
しかしながら多くの人はデフレより、むしろインフレを強く警戒している。とりわけ国民が経済面で保守的な国々でこの傾向が強い。私が中央銀行副総裁を務めるチェコ共和国もその一つだ。チェコでは2013年以降、中央銀行がデフレリスクを回避しようと戦い続けているにもかかわらず、国民はインフレを恐れ、せっせと貯蓄に励んでいる。
リーマン後の物価安定と購買力維持に寄与
先進国の中銀は積極的な介入をしたのにインフレ目標を達成していない、金融政策が効果を上げていない、という批判もある。しかし実際には、多くの中央銀行がリーマンショック後の物価安定と通貨購買力の維持に成果を上げている。仮に中央銀行の介入がなければ、世界経済はさらなる壊滅的なデフレや実体経済の崩壊に見舞われているだろう。
現行の通貨制度において、その購買力を一定に保つには、当然ながら通貨供給量を調整すべきである。そのため世界金融危機以降、各国中央銀行のバランスシートは膨張した。これは当時の危機の深刻さを表しているにすぎない。各国中央銀行は購買力維持と物価安定のため、必要とされることを実行したのだ。それを「積極的すぎる」と批判するのは適切ではない。
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