中央銀行に対してもう一つよくある批判は、積極的な金融政策が富の歪んだ再分配効果をもたらした、というものだ。しかし金融政策を実行した結果、再分配が生じるのも当然のことだ。仮に金利を引き上げれば貯蓄者に有利となり、引き下げれば借り手に恩恵がもたらされる。為替レートが上昇すれば輸入業者にとって追い風で、逆に下落すれば輸出業者にとって有利となる。
そもそも金融政策は時々の事情に応じ、さまざまな集団に効果を及ぼすべく実施するものだ。これは過ちでなく、金融政策の本質である。
確かに多くの先進国で中央銀行によるインフレ目標は達成されていない。これは残念なことだが、大失敗とまではいえないだろう。最近の物価下落の一因が原油価格の暴落という点を考慮しても、中央銀行ばかりに責任があるとはいい切れない。
評価についてもバランスが必要だ
こんなシナリオを考えてみてはどうか。ある会社が売上高を2%伸ばそうと計画したが、2年連続で何とか1%の伸びを達成するにとどまった。それで、この会社は失敗したと非難されるべきだろうか。必ずしもそうとはいえないだろう。民間企業では業績計画と実績値に1割以上の差が出るなど、よくあることだ。多くの企業は中央銀行よりシンプルな環境、つまり、より少ない変数の下で活動しているはずである。
誤解してほしくないが、私は中央銀行が目標達成の努力を怠ってもよい、と言っているのではない。当然ながら物価安定の目標に向けて中央銀行は努力すべきである。言いたいのは、その評価についてもバランスの取れた姿勢が重要ということだ。
金融政策当局が使える手段は多様だ。だからこそ多くの国で、状況に応じた手段がまだ残されている。中央銀行は、そのアプローチに自信を持つべきだ。
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