「がんとお金」の本当の関係を知っていますか 年間平均92万円の中身と給付・支援を分解

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ただし、全額自己負担になる費用もある。入院中のプライバシーを確保したいなどの理由で個室を希望した場合の差額ベッド代、食事代の一部、先進医療の技術料などだ。

それだけではない。人によっては、抗がん剤で髪が抜けた場合の医療用かつら、乳がんで乳房を全摘出したときの専用パッドなどが必要になることがある。商品の種類によって価格はピンキリだ。また、家族のサポートにかかる費用が膨らむこともある。普段、家事や育児を担っていたはずの人が入院している間、家事をアウトソースする必要があるからだ。

濃沼教授の調査では、健康食品・民間療法への支出も年間平均20.5万円と大きい。こうした代替医療には科学的根拠に乏しいものもあるが、わらにもすがる思いでおカネを払っている人が少なくないようだ。民間保険への保険料も同36.3万円にのぼっている。また、がんの治療が入院から通院に移っていることもあり、交通費も年間平均3.5万円かかっている。

「戻ってくるおカネ」があることを知ろう

ポイントは、上記の自己負担額がかかる一方で、「戻ってくるおカネ」も一定額あることだ。民間保険の給付金や公的な支援制度によって、年間平均61.3万円は戻ってくる(濃沼教授の調査)。よって実質的な自己負担は、92万円から61.3万円を差し引いた30.7万円ということになる。

がん患者の費用負担を軽減するうえで、マストアイテムともいえるのが「高額療養費制度」だ。医療機関に払う自己負担が1カ月で一定限度を超えると、超えた分の払い戻しが受けられる。

たとえば、年収700万円の会社員が手術のために入院し、医療費が総額100万円になったとする。本来、自己負担割合が3割だとしても、30万円は支払わなければならないはずだが、加入している健康保険から高額療養費制度が適用されると、退院時の支払いは約8万7000円で済む。

ほかにもさまざまな制度があるが、原則として患者が申請することになっている。患者自身が制度を知り、動かなければ、控除や給付が受けられないということに注意が必要だ。

年収の高い人の中には、「年間30万円の自己負担ならば許容できる」と感じた人もいるかもしれない。とはいえ年収の高い人は、高い年収を前提として、住宅ローンや教育費を設計している場合が多い。治療のために休職や退職をして年収がダウンした場合、月に数万円の負担でも大きな負担に感じられることもある。

がんが治る病気になった今、長期間にわたってがんと付き合っていくためには、一人ひとりが自分のマネープランを考えることが重要になりそうだ。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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