存続なるか 日の丸造船業

迫り来る「2014年危機」

船腹過剰で受注激減 仕事払底の危機が迫る

近年、世界の造船業は空前の好景気に沸いた。中国爆食などを背景に2000年代半ばから海運市況が高騰し、世界中の海運会社、船主が競って新船の仕込みに走ったからだ。海運バブルが造船バブルを呼び込み、それまで年間3000万総トン(総トンは船の容積を表す単位)前後だった新船需要は激増、ピークの07年には1・7億総トンにまで膨れ上がった(下グラフ参照)。

当時、韓国勢の追い上げで劣勢に立たされていた日本の造船業界は、この“神風”でにわかに活気を取り戻す。国内外から次々に舞い込む新船建造の依頼。各社とも受注残(=手持ち工事)は建造能力の数年分にまで積み上がり、たちまち国内の造船所はどこもフル操業に。10年には初めて日本の竣工量が2000万総トンの大台を超え、12年も国内造船所の稼働率は依然高い。

にもかかわらず、日本の造船業界は今、暗いムードに包まれている。なぜか。将来の飯の種となる新規の受注が激減しているからだ。リーマンショック前に発注された大量の新船がこの2~3年で続々と竣工した結果、海運業界はたちまち船腹過剰に陥り、運賃市況が暴落。その余波が造船業界にも及び始めたのである。

日本造船工業会によると、国内の主要造船会社による11年の新船受注量は770万総トンと前年から4割近く減少。リーマンショック直後の09年実績(850万総トン)をも下回り、過去15年間で最低水準にとどまった。12年に入っても同様の状況が続いているため、手持ち工事量は目に見えて減っている。6月末時点の受注残は約3000万総トンとピークだった07~08年当時の半分弱で、しかも、その大半が13年末までに竣工・引き渡しを迎える。

つまり、このまま新規の仕事が取れずに受注残の取り崩しが進めば、「国内造船会社の多くで14年途中に仕事が底を突いてしまう」(国土交通省の今出秀則・海事局船舶産業課長)のだ。これが日本の造船業界に迫る“危機”の正体、いわゆる「2014年問題」だ。

船価はピークの半値 日本勢は円高も打撃

すでに一部の造船所では、危機が現実のものになりつつある。

住友重機械工業の造船子会社、住友重機械マリンエンジニアリング。石油タンカーを専門とする同社は、2年近くにわたり新規受注が途絶えている(10月末現在)。契約どおりに今年度5隻を引き渡すと、残る手持ち案件はわずか1隻のみ。来年度以降の大幅な操業縮小は避けられず、横須賀造船所の正社員約500人の大半をグループ他事業へ配置転換するなどの対応策を検討中だ。

住友重機械は横須賀造船所の操業維持が困難に

何しろ、業界の受注環境は悲惨な状況だ。量の減少に加え、船価は数年前の半値近くにまで下落(下グラフ参照)。金額だけを見るとバブル前の水準に戻っただけのようにも見えるが、製造原価の過半を占める鋼材価格は当時の倍近い。今の船価は、コストの安い中国、韓国勢でさえ赤字になる水準だ。

さらに日本勢を苦しめるのが昨今の円高だ。造船所の品質と生産性は現場作業員の技能・熟練度に左右されるため、造船業界は他の製造業のような海外生産移管が進んでいない。一方、海運会社や船主からの建造発注は米ドル建てなので、円高進行はまさに死活問題である。

国内最大級の三菱重工・長崎造船所。LNG船と大型客船に未来を託す

「こんな相場では、(受注を)取れば取ったで大きな赤字が出る。仕事欲しさに無理して取れば、自分で自分の首を絞めることにもなりかねない」。大手造船の幹部はこうこぼす。将来の操業対策と受注採算の板挟みで、各社は頭を悩ませている。

振り返れば、日本の造船業界は、1970年代、80年代と2度にわたる「造船大不況」期を乗り越えた。しかし、当時と今では、競争環境がまるで違う。当時の日本は新船竣工量で5割以上のシェアを誇り、世界最大かつ最強の造船国だった。その後、90年代に韓国、さらに00年代半ば以降は中国も急激に台頭。すでに日本は竣工量で両国に抜かれ、シェアも2割程度にまで下がっている。

次ページ激化する韓・中との競争
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