存続なるか 日の丸造船業 迫り来る「2014年危機」
「今までの常識が通じない、大変な時代になった」。川崎重工業の船舶海洋カンパニーを率いる神林伸光・常務取締役の偽らざる心境だ。
川重の造船部隊は今年6月末、6年ぶりにLNG(液化天然ガス)運搬船の受注を獲得した。関西電力が輸入するLNGを運ぶための船で、関電と長期運行契約を交わした商船三井からの発注だ。LNG船は商船の中でも工事規模が大きく、金額は1隻で150億円を下らない。川重にとってうれしい受注のはずだが、神林常務の表情は険しい。
1年前、川重はLNG船を複数受注する絶好のチャンスを得た。大阪ガスが2隻のLNG船新設を決め、発注先の選定を進めていたからだ。LNG船建造は韓国が主役になって久しいものの、日本のユーザーに限れば、長年の信頼関係がある国内造船所への発注が今も常識だ。しかも、関西発祥の川重は大ガスと取引関係が深く、大ガスのLNG船は主に川重が手掛けてきた。
ところが、川重の期待に反し、実際に仕事を請け負ったのは三菱重工業だった。しかも、2隻ともだ。大ガスからの受注に際して、三菱重工は新設計のLNG船を投入。球状のタンクを丸ごと覆った新構造で走行時の空気抵抗を減らしたほか、内燃機関なども全面的に見直し、同社の従来型船より燃費性能を2割以上改善させた。そして、この最新鋭のLNG運搬船を、川重より安い価格でぶつけてきたのだ。
三菱重工の造船事業は1000人以上もの開発技術者を抱え、平均給与水準も高い。固定費負担が大きい分、本来なら、造る船の値段は他社より高くなる。「三菱の出してくる見積額がいちばん高い」(国内の大手海運役員)。それは海運・造船業界における長年の常識だった。
大ガスで失注した川重は、「今回は何としてもうちが全部取る」と決死の覚悟で関電向けLNG船の受注交渉に臨んだ。発注されるLNG船は2隻で、競合相手は再び三菱重工。お互い一歩も引かず、価格競争は熾烈化。最終的に関電案件は川重、三菱重工が1隻ずつ受注する形で決着したが、両社とも採算割れの赤字受注だったと見られている。
日本を代表する重工2社による、身を削るかのような受注争奪戦。その背景にあるのは、迫り来る「2014年問題」への強い危機感だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら