「持たない経済」で得する人、損する人 大前研一が語る「アイドルエコノミー」

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縮小

アイドルエコノミーがこの先、ありとあらゆるものに広がっていくことには懸念もあります。ひとつのものをみんなで有効活用するわけですから、物を買う人が減ります。当然、経済規模は小さくなります。たとえば、Uberのようなサービスがさらに発達して、みんなが車も持たなくなると、そもそも自動車の販売台数は減りますし、必要な駐車場の数も減ります。自動車保険も必要な時に入るという形で契約すればいい。そうやって、みんなが合理的になっていくと、経済のパイは縮んでしまいます。

アイドルエコノミーは、つねにこうした危険性をはらんでいます。それを避けるためには、サービスの使用頻度を上げていかないとなりません。たとえばAirbnbのメリットは安く泊まれるだけでなく、ホテルを利用していたらなかったような、人同士の交流が生まれることにもあります。そのように、これまでだったらできなかったようなものやことにアクセスしていこうという活用の仕方にならないと、経済規模の縮小は避けられません。

おカネがなくても豊かに生きていける時代がくる

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アイドルエコノミーの広がりに対して、政府・企業・個人はどう対応するべきか。政府もようやく岩盤規制を緩和しようというところまで来ています。日本中に膨大な数の空き家があり、しかもほとんど使われていないという状況です。もっと人生を楽しむ、「グッドライフ」というものを政治の中心に据えれば、多くのビジネスチャンスが生まれるはずです。

大企業は、「何でも自社で保有する」という概念から脱却することです。現状のままでは、既存のビジネスが突然死の危機にさらされることになります。使っていない機械・設備、工場、店舗・販路、オフィス機器、人材、研究開発など、ヒト・モノ・カネを世界中のクラウドから調達する。あるいは逆に、自社の資源を提供することが必要です。

中小・ベンチャー企業にとって、アイドルエコノミーは千載一遇のチャンスです。大企業のアイドル(使っていない人・モノ・カネ)を狙ってビジネスを仕掛け、プラットフォームを活用して販路拡大に打って出ていただきたい。

個人としては、モノを所有する必要はなくなります。アイドルエコノミーのサービスを利用して安く人生を楽しむと同時に、もしあなたが知識や情報によって付加価値を生み出すことができる優れたナレッジワーカーなら、ぜひ新しいビジネスを始めていただきたい。そうでない人は、情報格差の橋渡しをするコンシェルジュとしてしばらくは食べていけるはずです。

アイドルエコノミーは、利用できるものを賢く利用して出費を抑えながら生活の質を高めていくことができる可能性を秘めているという点で、収入が伸びていかないこれからの時代に非常にフィットしていると言えるでしょう。これらのサービスを縦横無尽に使いこなしていける発想の持ち主は起業家にもなれるし、少なくともこうしたサービスを利用して、おカネがなくとも豊かな生活を送ることができます。そういった意味で、アイドルエコノミーをよく知ることは、次の時代を生き抜く発想法を身に付けることにもなるのです。

大前 研一 ビジネス・ブレークスルー大学学長

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おおまえ けんいち / Kenichi Omae

1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍する傍ら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長およびビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

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