「消費増税の延期」は根拠のある正論だ アベノミクスはまだ終わっていない

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なお、クルーグマン教授が、この会合のやり取りを自身のブログで独自に公開したことが話題になった。これで判明した、安倍首相などと教授の間でのいくつかのやりとりは、安倍政権の経済政策に対する考え方を把握するうえで、示唆に富む材料となっている。そして、それらは、安倍政権が2017年4月の消費増税を先送りする可能性が高いことを示していると思われる。

一つは、安倍首相がクルーグマン教授に対して、日本の2014年の消費増税の悪影響が、米欧での増税策よりも大きくなっている理由として、「依然デフレから完全に脱していない」ことを掲げて質問したことである。2015年以降の個人消費などの停滞についてはさまざまな見方があり、増税先送りで将来不安の高まりによって個人消費が停滞した、など筆者が全く賛同できない見方も一部で言われている。

積極的な財政政策の是非がテーマに

一方で、「デフレから脱していない」つまり総需要不足の経済状況において、増税という緊縮財政政策を行ったことが成長停滞を長期化させた、という問題意識を安倍首相は抱いていると推測できる。なお、クルーグマン教授は、安倍首相からの質問に対して直接回答していないが、世界的にアグレッシブな財政政策が必要であるとの持論に言及した。

2016年に入って、先進各国の当局者などから、ヘリコプターマネーについての言及が相次ぎ、金融市場でも話題になることが多い。この背景には、クルーグマン教授などによる、積極的な財政政策を唱える主張の説得力が強まっていることがある。成長率押し上げのために財政政策の是非についてG7サミットなどで議論され、そのイニシアティブを安倍首相がとる姿勢を見せているが、そうした安倍政権の方針には、米国などの経済学者における最新の議論の変遷が影響しているわけである。

一部では、どのような根拠か不明だが(株高円安が終わったように見えるためだろう)、アベノミクスが終わったといわれている。ただ標準的な経済理論からかけ離れた旧民主党などの政策対応を反面教師にした、安倍政権の経済政策についての考え方は当初から変わらず、ブレていない。アベノミクスは、依然続いていると評価できると筆者は考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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