日本が世界一の「研究捏造大国」になった根因 「カネ取れなければダメ」が不正生み出す

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──単独不正だと?

STAP細胞事件の理化学研究所の場合には組織ぐるみでないかという見方もあったが、組織ぐるみにならない性格の研究だった。STAP細胞の場合は社会的に関心を引きすぎた。STAP細胞よりノバルティス ファーマのほうが罪は大きい。

ノバルティスはスイスに本拠を置く世界的な大企業で、米『フォーチュン』誌によると最も尊敬される製薬会社に該当していた。その日本法人がやってしまった。本部長クラスが立案し、10年かけ計画的にマンモス降圧剤に仕立て上げた。年商1000億円計画の下で、いい効能のデータを出し、いいジャーナルに載せる。社員が大学に非常勤講師で入り、データ作りを筒抜けにさせた。

まさに日本の臨床医学の弱点を突いた。

大事なのは風通しのいい、研究の運営

黒木 登志夫(くろき としお)/岐阜大学名誉教授。1936年生まれ。東北大学医学部を卒業。専門はがん細胞、発がん。東北大学加齢医学研究所助教授、東京大学医科学研究所教授、昭和大学教授、岐阜大学学長、日本癌学会会長などを歴任。米ウィスコンシン大学に留学、仏WHO国際がん研究機関に勤務など在外経験もある

──同じ分野の薬剤で武田薬品工業は京都大学医学部に「奨学寄付金」の供与をしていましたね。

ノバルティスから5大学に渡った総計11億円も奨学寄付金だった。しかし、この額に驚いてはいけない。武田薬品と京大とで行った降圧剤の臨床研究で京大が受け取った寄付金は、5年間で20億円。しかもこれには症例検討に必要な経費は含まれていない。そこでの都合のいいデータを武田は広告に使い、問題になって引っ込めた。

──降圧剤分野は儲かる?

一度飲み始めるとずっと飲み続けることになる。常用する人口も多い。武田はこの分野の研究で先陣を切っていた。

──実際、不正を現場近くで見られた経験もありますね。

東京大学分子細胞生物学研究所の事例だ。スター研究者の教授がこういう結果のデータを出せと最初から指示した。初めにシナリオありき。大阪地検特捜部による厚生労働省の事件と似ている。

──課題設定に無理がある?

おカネを取ったら取ったで成果が求められる。それがプレッシャーになる。大事なのは風通しのいい、研究の運営だ。みんなが自由にものを言える雰囲気がないといけない。

──研究不正は医学、生命科学に多い?

数学のように厳密にロジックを考える分野は下手なことをすればバレる。医学、生命科学における現象データの場合は追求されても、そのときはこうなったと言えば通るところがある。STAP細胞にしても、「できます」と言えば通ったところがあった。

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