「地震保険は損だ」という考えが危ない理由 日本は地震国「安全な地域はない」と心得よ
しかし、このハザードマップをよく見ると気づくことがある。今回の熊本地震の発生地区は大分まで含めておおよそ震度6弱以上の揺れの確率は3%から26%とされるが、南海トラフ地震の発生地区の近辺である太平洋沿岸地区に比べ、はるかに低い確率である。もちろん震度6弱以上の揺れが1%であってもその可能性を指摘していることにはなるのかもしれないが、筆者も含めて感覚的には色の薄い地域は安心だと感じてしまうのが正直なところではないだろうか。
このハザードマップに研究者の立場から異論を唱える人物がいる。東京大学教授で地震学者のロバート・ゲラー博士だ。
ゲラー博士は断言する「地震の直前予知はできない」。それだけではなく、確率的ハザードマップの根本的問題も指摘する。
重要問題の存在を証明するために、阪神淡路大震災も、新潟県中越地震も、北海道南西沖地震も、そして東日本大震災も、いずれもハザードマップの危険指定地域を外すかのように発生している。博士は皮肉を込めて「ハザードマップは”ハズレーマップ”」だと続けた。
彼が指摘するのは、ハザードマップは周期説に基づいて作成されているが、その説は最近の研究で否定され、間違ったモデルを使えば間違った予測は当然だ。
つまり、現在の学問では、私たちが意識しなくてはいけない“真の”ハザードマップは日本列島が危険度最大の赤一色で塗られたものであり、いつどこで巨大地震に遭遇するかわからないところで暮らしているということなのである。
それでも地震は自分には関係ないという過信
地震保険の都道府県別の加入率をみていると面白いことに気づいた。ほぼ地震本部のハザードマップの発生危険度に比例して加入率が低いということだ。
関連性の真偽についてはわからないが、保険に限らずハザードマップが自己都合の地震安全神話を築くキッカケにはなっていないだろうかと危惧してしまう。ハザードマップを実際に見ていなくても政府が南海トラフ地震を意識していることは、ニュースに疎い人でも多かれ少なかれ情報を入手しているだろう。
思い出すと、阪神・淡路大震災の発生直後、阪神地区に地震が発生すると思っていた人は少なく、当時はインターネットもなく情報の少なさもあり、建物から逃げ出してきた人たちが一様に東海地震が発生したと思って「神戸がこのヒドさだと名古屋はどうなっているんだろう」と話していたのを思い出す。筆者も本当に東海地方で地震が発生したと思っていた。
残念なことではあるが、ゲラー博士の指摘のとおり、予知で巨大地震を事前に避けることができない以上、万全の態勢をもって受け止める防災対策と、被災した時に少しでも早く生活を再建する術をもつことが重要だということになる。
私たちは地震国に住んでいるのである。本当のハザードマップはすべてが危険な赤一色の単純な地図だと考えたほうがいいのだ。地震は起きないと過信することなく、災害を最小限にする努力、災害から立ち直る備え、震災を起点とした前と後ろをしっかり対応できることこそ、地震に備える本当の意味なのかもしれない。
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