JR東海、想定外の「異常時」に乗客を守れるか 新幹線内の火災事件を教訓に避難訓練を実施

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車掌だけでなく、乗り合わせた社員も避難誘導を行なうというのが訓練の重要ポイントである。今年度からは鉄道運行に係わらない社員も不測の事態には乗務員と連携して事態に対処することになった。「非現業部門の社員が乗務員と組んでどのように誘導するか。この点をしっかりと確認したい」(JR東海)。

車内販売員も訓練に参加した。ワゴンが動かないように座席と座席の間に入れて固定した後、車掌や社員と共同で避難作業にあたった。

車掌は今年度から全列車に導入された防煙マスクと耐火手袋を着用して消火作業にあたった。だが、火の勢いが強く消火できない。乗客を車内にとどめておくことは危険と判断し、車外に避難することを決断。乗客をはしごで降車させて、線路外に避難誘導させることにした。足にやけどを負い自力歩行ができない乗客もいるという想定で、担架による搬送も行なった。

想定シナリオはかなり細かい設定がなされている。たとえば、車内は空調がストップしているという想定で、温度調節のため協力社員がドアの開閉による換気を行なった。ただし、扉が開いたままだと乗客が転落する危険があるため、転落防止ネットを設置し、その上で、ネットに近づく乗客がいないか監視も行なう。訓練ではこうした一つ一つの作業手順を確認し、問題点があれば今後、改善していく。

煙をたいて火災状況を体験

煙に巻かれる状況を社員が実際に体験(写真提供:JR東海)

訓練にはJR東海の各部署から216人が参加した。JR西日本やJR九州の現業部門の担当者も視察に訪れた。スモークマシンを使って実際に煙をたき、列車火災時の状況を社員が体験した。

線路上に降りた乗客は門扉から階段を降りて、用意された避難用バスに乗り込んだ。火災発生から避難完了まで1時間7分。ずいぶん時間がかかったようにも見えるが、鉄道会社の避難訓練は一般企業が行なう災害時の避難訓練とは次元が違う。早ければいいというものではない。「参加者どうしが手順を確認しながら行なったため」(JR東海)。手順を間違えると乗客の安全を脅かしかねない。つまり営業線を使った訓練は、乗客が確実に安全に避難できるかを確認する作業でもある。

訓練終了後、新幹線鉄道事業本部運輸営業部の古橋智久部長は、「現地で実際に体験してもらうことで新たな“気づき”を得て、より具体的な解決策を考えてもらいたい」と発言。「訓練に参加した社員が職場に戻って、参加しなかった社員にどのように今回の体験を伝えるか」が今後の課題とした。

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