ドル円は戻したとしても112円が精いっぱい 「円売り介入」は実際には不可能である
しかし、過去には米国の意向を無視して、敢然と立ち向かった財務官がいた。「ミスター円」こと榊原英資氏である。同氏は1997年7月に財務官に就任した。その年の12月には1兆円を越える「ドル買い・円売り介入」を実施している。その結果、ドル円は126円台から134円台にまで急伸した。翌1998年の4月にも2.8兆円もの「ドル買い・円売り介入」を実施し、126円台に落ちたドル円を再び134円台に押し戻している。その後、ドル高・円安基調が続き、8月には147円台の高値をつけるに至った。
大規模な円売り介入後に残った事実
しかし、その後のドル円は急落し、その年の年末にはとうとう113円台にまで急落することとなった。この動きを止めるため、6500億円の円売り売り介入を実施し、なんとかドルの下落に歯止めを掛けようとした。その後、首尾よくドル円は回復し、1999年5月には124円台にまで値を戻した。しかし、そこが下落の始まりだった。榊原財務官は1999年7月15日に退官するのだが、その直前に大規模なドル買い・円売り介入を実施。6月だけで3兆円、退任直前の7月5日には7800億円もの介入を実施したのである。このとき、榊原財務官は「ドル円相場を122円まで押し戻す」と公言し、力技での水準訂正を実施したとされている。この動きが米国の逆鱗に触れたことはいうまでもない。
当時の米財務長官であるサマーズ氏は、「この介入に対して同意していない」と公言したというのである。この発言をきっかけに、榊原財務官の退任後の11月に、ドル円はとうとう101円台まで下落した。当時の日本が貿易黒字国であったことも、円高に拍車を掛けたのだった。
この結果、残った事実は、介入による巨額の為替差損と円高による経済の疲弊である。このように、米国の了解のない中での身勝手な円売り介入を、ドル安政策を志向する今の米国を相手に実施すれば、その後の状況はきわめて悲惨なものになることは明らかである。したがって、無謀な円売り介入は実施されないと考えるが、そのほうがむしろ自然体でドル円は下げ渋りから戻りを試すのではないだろうか。
それでも、112円までの戻りが限界であり、その後は今年の年後半のいずれかのタイミングで再び円高基調が強まり、数年かけて80円台まで下落するだろう。最悪のケースでは、60円を目指す動きもありえるだろう。ドル指数が7年ごとに上下動するサイクルが明確であることを考慮すれば、次のドルのボトムは2022年になる可能性が高い。それまでは円安を期待せず、むしろ円高にどのように対処するかを考えるべきである。
むろん、その際には、日本株は厳しい状況に置かれることは言うまでもない。筆者は、日本株の購入ターゲットを、日経平均ベースで9800円に置いている。少なくとも、それまでは日本株の本格的な購入は控えるべきと考えている。
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