評者 奥村 宏 会社学研究家
エミール・ゾラの小説から始まって、南海の泡沫事件、そして現代のエンロンやワールドコム事件など、さまざまな事例を挙げて、コーポレイト・ガバナンスについて論じ、「会社を支配するのは誰か」ということを明らかにしようとする。
その際、最も重要なのは、経営者の首のすげ替えを誰がするのか、ということだとし、日本では、それは従業員など会社の内部者である、という。
その代表的な例として挙げられているのが、今から30年ほど前に起こった三越事件である。
当時、三越の社長をしていた岡田茂が取締役会で突然、解任されるという事件が起こった。その主役になっていたのは三越の内部重役、そしてミドルの従業員や労働組合だったという。
しかし、岡田社長解任で決定的な役割を果たしたのは、メインバンクであると同時に大株主でもあった三井銀行の小山五郎相談役(元頭取)であったことは当時から明らかにされていた。
著者はこのほか、社長が解任されたヤマハやセイコーをはじめ、さまざまなケースを挙げているが、著者の見解に都合の良いケースだけを取り上げているように見えるのは残念だ。さらに出光興産の出光佐三の話から、江戸時代の商家や武家における統治、そしてヘンリー・フォードとGMの対比など盛り沢山の話が織り込まれている。
問題は「会社を支配するのはいったい誰か」ということであるとするならば、株式会社の構造、そして株式所有の構造を理論的、そして歴史的に明らかにすることが必要で、さまざまな例を挙げるだけでは、この問題を解明することにはならない。
最後に、ソニーがはじめた執行役員制度について厳しい批判をしているが、この点については、なるほどと思える。
よしむら・のりひさ
和歌山大学経済学部教授。1968年生まれ。学習院大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。専攻は経営戦略論、企業統治論。著書に『部長の経営学』『日本の企業統治――神話と実態』などがある。
講談社選書メチエ 1680円 262ページ
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら