近藤誠氏の「抗がん剤全否定」は間違っている

「がん患者放置」は、あまりに無責任だ

実際、近藤氏の影響を受けて、「抗がん剤は絶対にやりません」と言う患者さんが増えている。

しかし、連載の第1回でお伝えしたように、抗がん剤には、副作用というマイナス面がある一方、それによって症状が楽になり命が延びるプラス面もある。大事なのは、プラスとマイナスのバランスを考えて、適切な治療を選択することなのだ。

私は医者になりたての2000年ごろに、近藤氏と論争する機会があった。当時の近藤氏にはまだ、抗がん剤のプラス面とマイナス面を論じる姿勢があり、きちんと議論になっていた。若造の私の意見にも耳を傾けてくれたことに対して、それなりの好感を持っていた。

しかし、最近は、どんどん主張が過激になり、今や、抗がん剤を全否定するだけでなく、医療そのものも否定するようになっている。プラスとマイナスのバランスを考えようという姿勢はなく、ただ、原理主義的な信念をもって突き進んでいるだけのようだ。

批判的な主張に対しては、揚げ足をとるような反論ばかりして、本質的なところは取り合おうとはせず、不毛な議論だけが展開されている。

思考停止と偽装、そして...

近藤氏の主張には、3つの問題がある。

一つ目は、「抗がん剤は絶対ダメ」で思考が停止してしまっている点だ。この大原則は全く揺るがないため、抗がん剤の有効性を示す科学的な根拠があったとしても、その根拠が間違っているという話になる。これでは、科学的な議論は成り立たない。

臨床研究で得られたデータ(科学的な根拠)は「エビデンス」と呼ばれ、今の医療は、信頼度の高い「エビデンス」に基づいて行うのがルールなのだが、このルールが通じないのだ。

近藤氏に共感する患者さんは、「抗がん剤についてこれ以上考えなくてよい」という部分に惹かれ、同じく思考停止してしまっているのかもしれない。確かに、がんという病気と向き合い、人生の目標や自分の価値観に照らして、プラスとマイナスの微妙なバランスを考えるのは楽ではないが、それを避けて安易な結論に流れてしまうのは得策ではない。

近藤氏の二つ目の問題点は、エビデンスを偽装していることだ。同氏は、自分の主張と合わないエビデンスを「腫瘍内科医が人為的操作を加えた結果なので信頼できない」と否定した上で、他のエビデンスを、自分の主張に沿うように都合よく解釈し、しばしば偽装して提示する。これは重大なルール違反と言わざるをえない。

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