近藤誠氏の「抗がん剤全否定」は間違っている 「がん患者放置」は、あまりに無責任だ
近藤氏は「病院には近付かない方がよい」と言って、ほとんどの医療を否定している。その言葉を信じて、病気を抱えながらも医療を遠ざけ、家に引きこもっている患者さんも多くおられるようだ。病状が進み厳しい状況に陥ったところで、救急車で病院に搬送される例も増えている。これは、「がん放置」というよりも「がん患者放置」で、あまりにも無責任だ。
家に引きこもっている患者さんの中には、不安を募らせながらも、「こんな状況で病院にかかったら、医者から怒られそう」と、受診できずにいる方もおられると思う。だが、これまでの選択を咎めたり、受けたくない治療を無理やり勧めたりする医者はあまりいないので、怖がらずに、早めに受診してほしい。
不毛な論争に終止符を
近藤氏の主張が広まったことで、思考を停止させてしまう患者さんが増え、「抗がん剤は善か悪か」という不毛な神学論争だけが展開され、医療不信はさらに深まり、患者さんと医者の距離はさらに広がっている。
でも、この状況は、近藤氏を批判すれば解決するようなものではない。世の中が彼のような存在を求めていた事実もきちんと理解した上で、私たちは、医療不信を払拭するための取り組みをしていかねばならない。
今のマスメディアは、感情を煽る「センセーショナリズム」や、白黒をはっきりさせる「善悪二元論」をもてはやしすぎている。近藤氏の主張は、この風潮にうまく合致したため、重宝されたのだと思う。
だが、生老病死の現実と向き合う医療現場では、センセーショナリズムよりも、科学的な根拠(エビデンス)と一人ひとりの価値観に基づく議論が求められる。善悪二元論でスパッと割り切るのではなく、リスクとベネフィットのバランスをぎりぎりまで判断しながら、前に進まなければならないのだ。
いつの日か、近藤氏とも、エビデンスに基づいてリスクとベネフィットの微妙なバランスについて語り合えるときが来ることを願っている。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら