賃金格差の縮小は、脱デフレの徹底で可能だ 賃金制度に政府が介入するのは望ましくない

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縮小

上述のような合理的な理由以外に、不当な格差が生じる賃金制度を企業が導入している場合も当然あるだろう。ただ、脱デフレとともに人手不足が今後恒常化する中で、差別的で不合理な賃金体系を放ったらかしにする企業は、従業員から見捨てられて淘汰されるのではないか。

労働市場の需給に応じて価格(賃金)が変動するメカニズムが働き、また働く人々の多様化(労働供給の変化)が進んでいる(後述する金融財政政策は、労働供給の変化にはほとんど影響を及ぼさない)。そして、市場で生き残るために、今後企業は多様かつ柔軟な人事賃金制度を導入する必要に迫られるだろう。民間企業が創意工夫で導入する賃金制度に、数値目標を掲げて政府が介入するのは望ましいと言えないだろう。

「不本意非正規」の割合は約20%

そもそも「欧州並みの賃金格差」がなぜ必要なのか、明確な理由はない。ただ、企業の賃金決定に政府が過度に介入する政策に筆者は否定的だが、賃金格差縮小は望ましいと考えている。すでにアベノミクス発動で2013年から雇用創出が始まり、労働需給改善が反映しやすい非正規社員の給料は底上げされ、たとえばアルバイトの時給などは都市部を中心に大きく上昇している。つまり、アベノミクスを貫くことで、格差は自然に縮小し、結果的に政府が掲げる目標が実現する可能性はありうる。

というのも、依然完全雇用には程遠い中で、やむをえず非正規にとどまっている「不本意非正規」の割合は約20%存在している。金融緩和強化が徹底され脱デフレが完遂されることで、正社員化が進み、賃金格差は自然に縮小するだろう。脱デフレ、経済復活、格差縮小は同時に起きるのである。

昨年10月に、新たな3本の矢についての本コラムでも述べたが、新3本の矢や一億総活躍は、日銀のレジーム転換による金融緩和で始まった回復の恩恵を多くの国民に行き渡らせるという政治的メッセージの側面が大きいと思われる。2012年までの民主党政権が、雇用回復を実現できず、また貧困問題やブラック企業問題を深刻化させた、あてつけもあるのだろう。そう考えると、安倍政権が非正規社員の改善待遇を重視するのは自然な流れだろう。ただ、この成功に必要な政策は、金融財政政策の舵取りを間違えず、脱デフレを徹底することに尽きると筆者は考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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