こうしたつまづきにも関わらず、世界中の政府が、危機から学んだ教訓を生かす最良の道を模索した結果、一時は現況の一端とされた中銀が、解決に向けて本質的な役割を果たすと評価されるようになった。中銀は、金融システムを規制する新たな権限を与えられ、不況とデフレの回避を目的とする高度な干渉主義政策を新たに導入すべく強化された。
中銀のバランスシートは劇的に膨れ上がり、新たな法律は各中銀の影響力を桁外れに強めた。米国のドッド・フランク法はFRBに、かつて規制した経験がなかった分野への監督権を与え、そして経営難に陥っている銀行を処理する権限も付与した。
英国でも、BOEの権能が著しく強化された。1997年に分離されていた銀行への規制が2013年にBOEの手に戻されただけでなく、保険会社を監督する権限を初めて与えられたのだ。また、ECBは現在、欧州連合(EU)の銀行の8割以上を直接監督している。
この5年間に、中銀は西欧諸国で最も成長著しい業界となった。中銀は、意気揚々と浮かび上がりながら、反対勢力との力関係を逆転させてきたように見える。
しかし、この権限強化は不透明な結果につながる兆しが出始めている。中銀内部でも一部の担当者が、反感を買う危険のあるところまで彼らの役割が拡大してしまったと危惧し始めている。
関連して2つの危険性がある。第1には、中銀自体はグローバルな不均衡や巨額の過剰負債といった根本的な問題を解決できない点。これは特に欧州で紛れもない事実だ。ECBのマリオ・ドラギ総裁の言葉を借りれば「いかなる手段」を使っても、ECBがユーロの破綻を回避し続けている一方で、政府はほとんど何もしていない。
強大な権限には説明責任も不可欠
第2は中銀に権限が集中し過ぎている点であり、その典型的な例は量的緩和だ。この措置は金融政策と、本来は政府の業務であるはずの財政政策との境界をあいまいにしてしまっている。実際にドイツでは、ECBが独立した強い権限を持つにもかかわらず、責任を負わなさすぎていると指摘されている。米国でも、議会がFRBを監査すべきだとの声が出ている。
金融政策の独立性は、中銀が苦労して獲得したご褒美だった。そして経済にも多大な利益をもたらした。しかし、公的資金を投じて債券を購入したり、多大なコストを費やして銀行を段階的に整理ことなどを行う以上、一定の説明責任を果たさねばならないだろう。
金融危機を経て実施された中銀の機能強化は、拙速に行われた側面もあり、好ましからざる結果を再び招く危険性がある。特に、政治の側によるチェックが不足すれば、金融政策にも影響を及ぼしかねない。このため、中銀が説明責任を果たすための新たなメカニズム構築は、十二分の配慮をもってなされる必要があるのだ。
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