大丸松坂屋、墓石まで売り捌く「外商」の凄み "お得意様"専用のサロンには何があるのか

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ただ、他の百貨店との客の取り合いは熾烈だ。上顧客になればなるほど複数の店の外商員の手がついている場合が多い。同じブランドの同じ商品が欲しい場合、「あなただから買うわ」と言われるかどうか。それが外商員の腕の見せどころだ。

東京駅直結の大丸東京店11階に外商顧客向けのラウンジがある(撮影:尾形文繁)

信頼関係を築くための戦略は、外商員それぞれである。入社4年目の20代で外商員になった則竹氏は「お客様に社会の様々な知識を教えてもらい、可愛がられるように努めた」という。商談抜きでも、定期的に客の家に通い、2~3時間会話をしながらお茶をする。百貨店の中を一緒にまわって、駐車場まで荷物を運ぶ。そして、いつどのような要望があっても答えられるように、携帯電話は手放さない――。こういった日頃の付き合いが、のちの業績を大きく左右するのだ。

さらには、年に4~5回開催される大規模な店外催事の魅力も他社との差別化要因になる。同社の場合、シャングリラホテル(東京・千代田区)やアンダース(東京・港区)など人気のホテルで、ディナーショーやマジックショーを開催。着飾ってホテルにやってきた客が、その演出に満足すれば、商談も上手くまとまると言うわけだ。

40代の働く女性に好評な外商向け限定サイト

ただ、昨今はビジネスの環境が変わってきた。40代前後の客を中心に共働きが増え、日中の商談は難しいばかりか、夜間しか時間がない、というケースも増えた。客との接点を増やすため、同社は、2014年6月に外商向けの限定サイト、「コネスリーニュ」を開設。一点ものの超高額品を含めた商品を、ショールームのように見ることができる。

商品を顧客が選択すれば、担当の外商員から連絡が来るという仕組みだ。2016年2月末時点で会員数はまだ1万人程度だが、40代の働く女性を中心に評判は良い。こうした流れには、他社も追随する。高島屋は、2015年11月に「タカシマヤ イーサロン」を開設。8月には、オンライン上での決済機能を導入し、利便性をさらに高めていく狙いだ。

不振にあえぐ百貨店には現在、従来の百貨店商材からの脱皮を目指す動きがある。大丸松坂屋でも、ユニクロやヨドバシカメラといったテナントを入れることで、安定した賃料収入と、集客効果を見込む。ただ、その一方で、ショッピングセンターや量販店には決して出来ないビジネスこそが、客と外商員との信頼関係でなり立っている外商だ。

2015年にクレディ・スイスの発表したレポートによると、日本において資産を1億円以上有する富裕層人口は212万人。中間層の百貨店離れが止まらない今、富裕層をどこまで自社の上得意にできるかが、百貨店の勝敗を決める重要な要素となりそうだ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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