「抗がん剤の是非」を巡る論争は、不毛である がん患者にとって一番大事なものは何か

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まず考えるべきは「これからの人生をどう生きていくか」ということだ。その目標にプラスになるなら抗がん剤を使えばいいし、マイナスになるなら使わなければいい。プラスかマイナスかは状況次第で違う。「どんな場面でも絶対にプラス」とか「どんな場面でも絶対にマイナス」というように、一般論として白黒つけることに意味はない。

いいと決めつけてすがりついてしまったり、悪いと決めつけて全否定してしまったりして、思考を停止させてしまうのではなく、いい面と悪い面を知り、そのバランスを考えることこそが重要なのだ。

頼りすぎず、怖がりすぎず

抗がん剤は、「希望のすべて」でも「悪魔の毒薬」でもなく、使い方次第でプラスにもマイナスにもなる道具だ。頼りすぎず、怖がりすぎずに、活用すべきときに活用すればよい。

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抗がん剤に対して、いいイメージを持っていても悪いイメージを持っていても、また、医療に対して肯定的でも否定的でもよいが、そういったイメージや善悪二元論のために、バランスのとれた思考ができなくなっているとしたら、それは考え直した方がよいだろう。

不毛な抗がん剤論争は、もう終わりにすべきなのだ。

それよりも、「幸せ」「希望」「安心」を感じられるような医療のあり方、自分らしく生きるための、がんとの向き合い方について、一人ひとりがきちんと考えていくことの方が、よほど重要だ。

そんな想いでこのほど、拙著「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」を上梓した。これまで出会った患者さんたちの生きざまやエピソードを紹介しながら、腫瘍内科医として考えてきたことなどを綴った。この本が、抗がん剤をめぐる不毛な論争に戸惑ってしまっている患者さんやご家族の支えとなることを願っている。これからがんと関わるかもしれない、すべての人に読んでいただければと思う。

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