ソフトバンク 孫正義 世界一への野望 売上高で世界第3位へ
ただし、足元は復調の気配もある。顧客満足度の改善などに力を注いでおり、契約数は10年4~6月期から純増に転じている。AT&Tとベライゾンが先行して販売した「アイフォーン」をようやく昨年10月から販売開始したことも大きい。
「いちばんいいところで、ソフトバンクは買収を決めた」(孫社長)こうした状況がまたとないチャンスと映ったに違いない。
そもそも、業績不振でもなければ、スプリントのような大手携帯電話会社が“売り”に出ることはまずない。しかも円高と超低金利という追い風が吹いている。ボーダフォン買収時の為替相場は1ドル=117円前後。買収資金の借入金利は4%だったが、今回は1%台という。今回の買収スキームでは201億ドルのうち、80億ドルをスプリントの財務改善や戦略投資などへ充てることになっており、攻めに出るための資金も注入する。
V字回復とM&Aでボーダフォンを再現
スプリント買収には、外国企業による投資を国家安全保障上の観点から審査する外国投資委員会(CFIUS)や、連邦通信委員会(FCC)などの承認が必要になる。ただ、Tモバイルがドイツテレコムの傘下であることや、ベライゾン・ワイヤレスに英ボーダフォンが45%出資していることなどを踏まえると、今回の買収は認められるのではないかという見方は多い。
「日本でソフトバンクがやったことを米国でもう一度やれる」
孫社長はそう言い切る。米国はスマートフォンが販売の中心で、1契約当たり収入が4454円と高い。世界ではプリペイド型携帯電話が主流な中、後払い比率が8割弱ある。こうした日本との共通点があるうえ、日本より通信速度が遅い、2社の寡占という状況で、攻めどころは多いという認識だ。「日本で培ったノウハウを米国市場に投入していきたい」という孫社長の頭にあるのは、ボーダフォン日本法人買収後に行った戦略の再現だろう。
ソフトバンクはボーダフォン買収後、さまざまな販売戦略を仕掛けた。中でも、月額980円の「ホワイトプラン」は契約者獲得の原動力となった。倒産したウィルコムの再建でも、「だれとでも定額」という斬新なメニューを導入し、契約数を大きく伸ばしている。
ソフトバンク快進撃を支えたアイフォーンも武器になる。08年7月から、KDDIが参入する昨年10月半ばまで国内で独占販売。パケット定額制への加入を必須にしたことで、ユーザー数だけでなく1契約当たり収入も上がった。「ソフトバンクの新規客のうち、7割をアイフォーン購入客が占める」(販売店関係者)との声もあるほどだ。