ソフトバンク 孫正義 世界一への野望 売上高で世界第3位へ

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ただし、これらの施策を“移植”したとして、どれだけ米国で通用するかは未知数だ。

ホワイトプランのような安い音声定額プランは、うまくいかない可能性がある。米国では、低価格を求める人はプリペイド携帯を使うケースが多い。

アイフォーンも、ベライゾンとAT&Tに追随する格好であり、差別化の武器にはならない。孫社長は、スプリントとの共同調達効果にも期待を寄せているが、「交渉相手はアップル。簡単に値引きは認めないはずだ」(通信会社幹部)。

唯一、勝負できそうなのは、日本ではおなじみのデータ定額プランだ。ベライゾンとAT&Tは、通信量に応じて課金する「従量課金制」を採っているが、スプリントはソフトバンクと同じデータ定額制にしている。その料金を思い切って下げればインパクトは大きい。それを武器に契約数が急増した場合、通信量の急増に基地局の数が対応できるのかといった課題はあるが、孫社長の日本での経験が生きるとみられる。

「ボーダフォンのときもみんなをあっと言わせる方法で事業を拡大してきた。今回も周囲の想像を上回る腹案があるに違いない」というのが衆目の一致するところだ。

ただ──。孫社長の目はすでに米国を向いていないかもしれない。

スプリントの経営には、買収後も引き続きダン・ヘッセCEOが当たる見通しだ。孫社長はヘッセ氏がスプリントのCEOに就任する以前から交流がある。孫社長は、「アクティブな会長として経営にかかわる」と言うが、その実、日本での成功体験をヘッセ氏に伝えるだけで、自らは欧州やアジアなどでの買収に動いてもおかしくない。

ここで思い起こされるのは3G黎明期のM&A旋風だ。英ボーダフォンは1999年に米エアタッチを602億ドルで買収。翌00年には独マンネスマンを2027億ドルで買収するなど、00年前後に世界各地で携帯会社のM&Aを次々と実施し、一時は世界最大手に上り詰めた。そのことを孫社長が意識していないはずがない。

LTE方式に対応したアイフォーン5の登場などにより世界でLTEの普及が進む中、イー・アクセスやスプリントの買収に動いたソフトバンクはボーダフォンの姿に重なる。日米だけでなく欧州、アジアを押さえれば、端末や設備のバイイングパワーが強まり、規格争いなどでも優位に立てる。

「いずれ世界一になるという高い志は持っている。(M&Aの)可能性は何でもある。NTTを買収することだってありえる」と孫社長は含みを持たせた。遠からず、次なる巨額買収のニュースが舞い込むに違いない。

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