「努力するにもカネがいる」理不尽な日本 「21世紀の不平等」白熱教室in慶応大学
では、格差はどうすれば是正できるのだろうか。ここでアトキンソン氏が『21世紀の不平等』で提言する「格差を是正する15の方法」を挙げてみよう。
2 多くの人々の声を反映する仕組みを強化しよう
3 失業者の雇用を政府が保証しよう
4 ちゃんとした国民報酬政策をつくろう
5 貯蓄にはプラスの利子を保証しよう
6 成人した人みんなに定額のお金をあげよう
7 ソヴリン・ウエルス・ファンドなどで国の資産を増やそう
8 所得税の累進性を高めて最高税率を65%にしよう
9 所得の低い人には政府が税を通じて補助金を出そう
10 相続や生前贈与に対して、適切な課税をしよう
11 最新の不動産鑑定に基づいた固定資産税にしよう
12 すべての子どもに児童手当をあげよう
13 広い意味での社会参加に対して所得保証をしよう
14 社会保険の給付を引き上げ、範囲を拡大しよう
15 富裕国はODAをGDPの1%に増やそう
この提言に対し、学生たちからは次のような意見が出た。
「子どもの格差については政府がおカネを出さなければいけない」
「現金給付と言っているが、誰もが欲しがるおカネを一部の人に配ることが、本当に日本で受け入れられるのか。機会の平等を考えるのであれば、現金給付よりもサービスを出すべき。とくに教育サービスは効果的」
学生の意見に共通しているのは、子どもの貧困は絶対に認められないということ。子どもをきちんと育てなければ、国の将来も危うくなる。そうした問題意識のもと、格差の議論はさらに深まっていった。
賃金低下は日本の病気
こうした学生たちの議論について、近く『井手英策 18歳からの格差論』を刊行する井手教授は、「格差について問題なのは、格差が見えないということ。そして、もうひとつ。多くの人がいろんな意味で格差を受け入れないことだ」と指摘する。
「とくに、自分は貧困層ではない、格差を受け入れないという見方はやっかいだ。生活苦に耐えながら働いている人たちは、貧困層に対して、努力していない、だから自己責任だという不満を募らせる」
なぜ努力しない人たちのためにカネを払わなければいけないのか。そうした不満は、とくに世帯年収300万~400万円の非正規カップルに多いのではないかという。貧しい人が、より貧しい人を差別するような状況こそが問題だと井手教授は強調する。
一方、ブラックバイト問題については、「企業悪者論」だけを唱えていても問題は解決しないという。そもそも日本人は、長時間労働でGDPを上げてきた国民。歴史的に見ても、ブラック企業というのは、いかにも日本人らしい現象のひとつだと解説する。
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