一流アスリートを転落させる「2つの呪縛」

バドミントン男子の賭博問題で考える

「選手でダメだったらトレーナーになります、と言う。トレーナーの需要がいかほどか知っているのかと聞けば何も知らない。親は子どもが挑戦したいからと言うが、子どもの人生にとってどうなのかを熟慮してほしい」

体育系の学科 大学に急増中

ひと昔前は「スポーツバカになるな。運動ばかりせずに勉強しろ」と大人に言われたものだ。今は科学トレーニングなどの導入で練習時間が短くなり文武両道を目指しやすい傾向にある一方、安易に大学への道が開かれる土壌が拡大しつつある。

その背景には「体育学科バブル」があるとも言われる。

2005年度の文部科学省学校基本調査報告書によると、体育学部以外に「スポーツ・健康学部」を設置する大学は1校だった。だが、学校検索サイト「ナレッジステーション」で16年度の日本の大学を「スポーツ・健康科学」で検索すると、その関連の学科の設置件数は139に上る。学部と学科の違いはあれど、10年ほどで著しく増えた理由は、大学が知名度アップに運動部強化を目指す従来のパターンだけでは説明がつかない。

Jリーグをはじめ、拡大するスポーツビジネスに関心を持つ学生が増えたうえ、大学の設置基準が緩和された影響も大きい。二つの要因が重なってスポーツ関連学科が増えているのだ。しかし、前出の小林教授は「適切に指導する人材がそれに間に合っていないのではないか」と心配する。実技試験のない、もしくは競技実績と関係ないスポーツ推薦入試も存在するという。

キャンプ通じて正しい行動学ぶ

一連の事件を受け、日本バスケットボール協会の川淵三郎会長が「ジュニアから教育を」と提案したように、選手への早期の社会教育が叫ばれ始めた。

以前から早期教育に取り組んできたのが、Jリーグ2部・京都サンガF.C.普及部長の池上正さんだ。数年前からジュニアのスクールのプログラムにデイキャンプを採用。小学生が自分たちの力でテントを立て、米を研ぎ、料理をつくって親たちにふるまう。活動のなかで、仲間と助け合い、人として正しい行動や哲学を経験から学びとる。「言動がしっかりしてくる」「自分から取り組むようになった」と保護者からも評価を得ている。

「オシムさん(元日本代表監督)が、サッカーは人を育てると言ったように、本来スポーツは人を成長させるもの。それなのに、大人が勝ち負けや技術の進歩だけに注目していると、子どもの全人格的な育ちはない。ジュニアのうちに、勝ち負けよりも重要なこと、リスペクトされる選手像とは具体的にどういうものなのかを、心と体にしみ込ませなくてはいけません」

そう話す池上さんもかつて、旧知のブラジル人コーチから聞いて驚いたことがある。7歳でクラブとプロ契約したそのコーチはその後、さまざまな講習を受けた。たばこやアルコールがどれだけ健康を害するか。ドラッグがいかに恐ろしいものか。すべて専門の医師がやってきて、映像や画像を用いて頭と心にたたき込む。

また選手たちは、自分のクラブが輩出した代表選手の名前を、加入年も含めて全員暗唱できた。ブラジル国旗をつけるセレソン(代表)は国民の英雄。特別な存在だからこそ、格段にリスペクトされる人間にならなければいけない、と教え込まれていた。

「ブラジルはそんなことを40年前からやっていた。日本も育成そのものを見直す時期だと思う」

アスリートとしての名声を得られても、大人になり切れなかった面々の後悔の涙から、日本のスポーツ界が学ぶべきものは大きい。

(ライター・島沢優子)

※AERA 2016年4月25日号

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