キューバがストーンズを熱烈歓迎したワケ

共産国で奏でられたロックの「破壊力」

欧米民主主義国のロックファンは、ローリング・ストーンズや、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、またはフランク・ザッパのザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのようなグループに楽しさを求めて耳を傾けていた。ロックスターの中には政治的な虚勢を張る人もある程度はいたが、問題にするほどではない言動だと見なされていた。

しかし、当時のチェコスロバキアでは、音楽が重大な反抗の表現だった。プラスティック・ピープル・オブ・ザ・ユニバースの擁護は、ハベル氏のような反体制派にとっては公益を守ることでもあり、人権抑圧に抗議する「憲章77運動」に繋がったのだ。

共産主義政権が崩壊した後、ハベル氏が自身の民主的な政府でザッパに公の役割を授けたとき、他の誰よりもザッパ本人が驚いた。逮捕の危険を冒しながら隠れて聴かざるを得なかった時代に、彼の音楽がどれほどの意味をハベル氏らに与えていたのかを示す話だ。

2006年発表されたトム・ストッパード氏の戯曲『ロックンロール』は、鉄のカーテン下に置かれていた国々を舞台としている。ハベル氏に似た登場人物が政治的抵抗の最高の形態として音楽を称賛する一方で、他の登場人物はこの考えを嘲笑する。この戯曲は、1990年にプラハで開催されたローリング・ストーンズの歴史的コンサートで幕を閉じる。

ロックは熱狂的な音楽だ。エクスタシーによって人は自身を解き放つことができる。これは、必ずしも無害なことではない。ナチスの集会で見られた集団ヒステリーも、エクスタシーの1つの形態だった。サッカーを観戦している群衆の挙動もそうであり、時に暴力に繋がる可能性がある。

私はかつて、非常に立派なシンガポール人の一団が、福音派教会のサービスで自分自身を解き放つ光景を目にしたことがある。興奮した日本人の伝道師に扇動され、灰色のスーツを着た男性たちが床の上でのたうち回り、激怒し始め、そして無意味な言葉をしゃべり出した。ゾッとするような光景だったが、この日本人伝道師の主張が間違っていたわけではなかった。

音楽に誘発されるエクスタシーは、宗教的狂乱の中で訳の分からないことを口走ることと同じではない。しかし、経験としては似通っている部分もある。だからこそ多くの場合、社会秩序の公的な監視者が、禁止しようと躍起になるのだ。

紀元前380年にプラトンは自身の著作『国家』で、エキサイティングかつ革新的な音楽は、古代ギリシャの都市国家にとって危険だと指摘した。型破りな音楽的娯楽が無法な状態につながると信じていたプラトンは、こうしたものを取り締まるよう、当局に助言していたのだ。

「時代は動き始めた」

先月、ミック・ジャガーはキューバのファンに「ついに、時代が動き始めている」とスペイン語で語り掛けた。おそらく、そうだろう。オバマ大統領もキューバ訪問を締めくくるスピーチで「未来への希望」について語った。ジャガーより10歳以上、大統領より約30歳も年長で、足が硬直して曲がらなくなっているラウル・カストロ国家評議会議長に、言論の自由を恐れるべきではない、とオバマ大統領は述べた。

これらは、素晴らしい言葉だ。しかし、キューバにおける本当の政治的自由はゆっくりと実現されるのだろう。キューバの例は、個人的な快楽主義を上手く政治的な権威主義と結び付けることができることを示している。ローリング・ストーンズは既に、上海でも演奏を行った。中国当局は彼らの曲を入念に調べ上げたと主張してはいるが。

しかし、それは始まりだ。ロックンロールが、公式にキューバにやって来始めている。ジャガーもキューバの恍惚とした伝統音楽に適切な敬意を払った。キューバ人は既に踊り方を知っている。次のさらに大きなステップは、独裁者たちが床から立ち上がることだ。

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