あえてキューバに残る若い起業家たちの思惑 米国への移民は過去最大規模だが
アントニオ・カマチョ(26)と姉のサンドラが、キューバの首都ハバナで経営する菓子店の名前は「バーナー・ブラザーズ」。今でこそ繁盛しているが、ここに至るまでに幾多のクッキーを焦がしてきた自分たちのことを「バーナー(焦がし屋)」と呼んだわけだ。
サンドラは元医師でアントニオは元営業マン。菓子作りの経験もなければ訓練も受けていない2人が起業までに繰り返した試行錯誤を物語る店名でもある。キューバは共産主義国家だが、一部業種で自営業を認めるようになってきている。
前途有望な「新興市場」
何万という若い世代のキューバ人たちが祖国に見切りをつけ、米国へと向かっている一方で、カマチョ姉弟のようにキューバに残ってこの国の未来に賭ける道を選んだ起業家も増えている。もちろん、前途は多難だ。
「今、キューバには非常に強力な新興市場が育っている」と、ハバナのベダド地区にあるバーナー・ブラザーズの狭い店内でアントニオは述べた。クッキーの価格は1個10セントだ。「私にとっては新興市場に参入するほうが、もっと歴史のあるほかの国の市場で同じことをやろうとするより容易だった」
昨年、キューバから米国へと移り住んだ人の数は、カストロ政権樹立で大量の亡命者が米国に渡った1959年の2倍を超えた。
オバマ米大統領は3月にハバナを訪問し、ラウル・カストロ国家評議会議長と会談したほか、米経済界の大物たちとキューバ経済の活性化を担う同国の起業家たちとの会議に出席した。だがキューバからは医師や小規模経営者、建設労働者にウエイトレスとさまざまな職種の人材流出が起きている。レストランや宿泊施設を営む人が増えている一方で、商売に見切りをつける美容師や農家は後を絶たない。