(中国編・第六話)本当の困難


 私がこの民間対話で特にこだわったのは、議論がお互い噛み合うように行われることと、その内容が両国民に広く公開されることである。
 これまでの多くの日中の議論がそうであったように、表面的な友好を繕ったり、お互いの立場を言い合うだけの対話では意味が全くない。そのためには何か、問題意識をお互いに共有する契機が必要だと私は考えていた。
 ある意味で相互不信の構造を対話の出席者が「共通の敵」として、克服しようと思うことができたら、本音でも噛み合う議論を行うことができるのではないか。そう思えたのである。そのためには今回初めて実現した共同世論調査の結果が、極めて重要だと私は思っていた。
実は最近になって、中国政府の外交部の関係者と意見交換をした際に、中国政府がこの対話の立ち上げ時に最も神経質になったのは、世論調査の公表だったという話を聞いた。
「内容によっては、中国の国民を刺激することになるかも知れない。でも、当面、様子を見ようというのが私たちの判断だった」
 もうひとつ私がこだわったのは、対話の公開性である。この日中対話は専門家だけが、内密に議論し合うものであってもいけない。
 発言者に過大なリスクを背負わせるわけにはいかないが、可能な限り公開し、日本の意見が中国国民にも幅広く伝わり、中国側の主張も日本国民に伝わる。そうした伝播のサイクルを対話から作り上げたかった。
 私が中国の巨大メディアと提携を行った背景には、中国国民への強い発信力への期待もある。これは両国関係の改善や相互理解にとどまらず、日本のアジアや世界での発言力の高まりのためにも必要な課題だった。

8月23日。中国大飯店には日本側からのパネリストの他、中国側の政府関係者、歴代の駐日大使など外交幹部、メディア関係者など200人が集まった。その議論の内容は中国語や日本語だけではなく、英語でも世界にインターネット中継され、CNNやBBCなど世界の主要メディアや中国の80を超すメディアにより詳細に報じられた。
 議論の公開と発信で、この対話は歴史的なスタートを切ることができたことになる。が、私が気になったのは、会議を終えた日本側のパネラーが「議論が中国側と噛み合った、こういう体験は始めてだった」と口を揃えたことだった。

ではなぜ議論が噛み合ったのか。その背景には世論調査の驚くべき結果があった。


工藤泰志(くどう・やすし)

言論NPO代表。

1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。

言論NPOとは
アドボカシー型の認定NPO法人。国の政策評価北京−東京フォーラムなどを開催。インターネットを主体に多様な言論活動を行う。
各界のオピニオンリーダーなど500人が参加している。


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