由紀子さんの話に戻ろう。カナダに移住する資金を貯めるためには、正社員ではなく時給の高い契約社員で薬剤師として働いたほうが効率がいい。都市部よりも僻地のほうが好条件で迎えられることが多いという。カナダでスノーボードを体験して楽しかった、札幌のブリーダーと縁ができて子猫を譲ってもらえる、などのポップな理由も加わり、由紀子さんは北海道に赴いた。
「旭川や富良野に住んで働きました。どの季節も景色が美しくて、冬はスノーボード三昧です。本当にいいところだったのですが、独身なのにこんな生活をしていていいのかしら、と思うことはたまにありました。男っ気はまったくなかったです。でも、毎日充実していたし……」
猫の病院や自分の年齢を考慮して、札幌に出て来たのが30代半ば。調剤薬局の正社員となり、ローンを組んで新築のマンションを購入した。カナダ行きではなく、札幌定住コースである。
マッチングサイトで出会った男性の悲しい一言
それでも「楽しく話せる欧米の人と付き合いたい」という気持ちは残っていた。友人の勧めで、アメリカ発の大規模なマッチングサイトに登録。英語で自己紹介文を書いた。すると、5歳年上の日本人男性の雄介さん(仮名)からメールが届く。東京の外資系保険会社を退職し、札幌で金融関連の仕事に就く予定だという。会ってみると、話題も豊富で楽しく過ごせた。37歳になっていた由紀子さんに結婚のチャンスが到来したのだ。
しかし、雄介さんは札幌に来て2カ月後に失業し、地元の小さな会社に再就職をすることになった。高収入は望めない。
「羽振りがよかったのは最初だけで、すぐにケチっぽくなりました。博物館への入場料300円すら割り勘。泊まりはいつもうちのマンション。彼の家に行ったことはありません」
デート代は節約する雄介さんは、趣味の野球観戦や一口馬主への出費は惜しまなかった。困窮しても見栄を張ってしまうのは男性にありがちな傾向であるが、恋人である由紀子さんとの時間にはお金を使わないところに愛情の薄さが透けて見える。
それでも雄介さんが好きだった由紀子さんは彼にこう切り出した。付き合い始めてから1年半が経つので将来を一緒に考えませんか、と。雄介さんからの返事は「そこまで真剣に2人の関係を考えてはいない」だった。
「泣いて泣いて目をはらしてしまいました。保冷剤で目を冷やさなければ仕事に行けないぐらいでしたよ。悲しさを通り越して腹も立ってきて、1週間も経たないうちに結婚してやる!と思いました」
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