家計所得低迷の原因は、実質所得低迷にあり 消費増税のせいにしていては何も解決しない

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1つ簡単な頭の体操をしてみるとよいだろう。家計の手取りの所得が昨年と同じだとして、日本が輸入している天然資源が不可逆的に値上がりして、家計が直面する物価が総じて約2.9%上昇した場合、家計消費にどのような影響が及ぶか。

これは、前述した消費税率が5%から8%に(約2.9%上昇)上がったときと似たことが起きる、と予想できる。唯一大きな違いは、値上がり分の家計が支払ったお金が、消費増税の場合は日本政府の収入となるのに対して、天然資源の場合は外国の資源保有者(アラブの石油王とか)の収入になる点だろう。同じ値上がりでも、払ったお金が、日本国内に残る消費増税と海外に流出する天然資源と、どちらがよいかは推して知るべしではあるが。

政府が発すべき大切なシグナルがある

とにかく、消費税率引き上げ以外の要因でも、家計が直面する物価が上がれば、物価上昇を上回る増加率で所得が増えない限り、実質所得は減る。家計消費の低迷をいつまでも消費増税のせいにしていても、的外れであるだけでなく、何の解決にもならない。どのような要因で物価が上がっても、実質所得が減らないような改革に着手しなければ、家計消費の低迷はおろか、デフレ脱却もままならない。

デフレから早期に脱却させるには、一度始めた異次元緩和策を縮小しては逆効果でよくないが、供給側に働きかけて労働生産性を高める取り組みを官民挙げて行うことも重要だ。そして、実質所得の増加を家計消費の増加につなげるには、安心して老後生活の設計ができるよう、公的年金を始め社会保障制度や税制を予見可能なものにして、若いときに多めの貯金(予備的貯蓄)をしなくてもよいとのシグナルを、政府が国民に発していくべきである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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