2014年4月に消費税率が引き上げられ、それとともに家計が直面する(税込みの)物価は上昇した。物価上昇を上回る増加率で所得が増えなければ、実質所得は減ることになる。実質所得が伸び悩めば、家計消費は低迷する。
物価上昇率は、通常、対前年同期比で測られる。消費税率の引き上げが物価上昇率に与える影響は、税率を上げた年度でほぼ終わる。2015年度に入れば、消費税率は2014年度と同じ8%だから、消費税率の引き上げが物価上昇率を上げる作用は2015年4月以降にはない。
2015年度に、2014年度と同じ手取りの所得(可処分所得)を稼いでいれば、消費税率は8%のままだから、家計の購買力は変わらない。消費税が、家計の購買力を2014年度よりも減らすことはありえない。また、2015年度の物価上昇率に消費税が影響を与えることもない。しかし、2015年度に入っても、実質所得(あるいは実質賃金)は伸び悩んだ。それはなぜか。もはや、消費増税のせいではない。そもそも家計が得る所得自体が伸び悩んでいるからである。
企業が賃上げに積極的になれない2つの理由
では、なぜ伸び悩むのか。さまざまな説明はできようが、端的に言えば、勤め先の企業などが賃上げに積極的でないからである。輸出が好調な企業では、ある程度の賃上げはあるが、特に海外と取引がない国内企業には、賃上げはあまり浸透していないかもしれない。
なぜ賃上げに積極的になれないか。この解釈は、大別して2つある。1つは、国内で需要が不足しており、売り上げが伸びないと賃上げできないという見方。もう1つは、労働生産性(投入した労働量に対して上がった付加価値額)が賃上げできるほど伸びていないという見方である。
前者の見方に立てば、国内で需要を喚起しなければ賃上げは起こらない、という処方箋になる。後者の見方に立てば、供給側で労働生産性を高めるための成長戦略を実行しなければ賃上げは起こらない、という処方箋になる。2016年度当初予算案が国会でまだ成立していない中、早くも消費刺激策を盛り込んだ2016年度補正予算の編成を求める声が与党内から出始めたが、これは前者の見方に立ったものと言える。
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