では、国内で需要を喚起すれば賃上げが実現するだろうか。企業が賃上げに応じにくい理由には、「人件費は固定費」との認識がある。つまり、正規雇用者は容易に解雇できないから、一度賃上げすれば、雇用し続ける限りその上げた賃金を毎月払い続けなければならないという認識である。
だから、企業が賃上げに応じるには、中長期的に安定した業況改善がなければ難しい。短期的な業況改善では、ボーナス等での一時的な所得の増加はあっても、恒久的な所得の増加にはつながらない。
ましてや、補正予算という臨時的で、恒久的な制度を伴わない予算措置では、需要を喚起しても一時的な効果にしかならない。その上、わが国における財政支出や減税による「乗数効果」は小さい。そんな一時的な効果で売り上げが増えても、企業は賃上げにおいそれとは応じられない。
しかも、現在のわが国の財政状況では、こうした消費刺激策のような財政出動は、長続きしないと足元を見られる。消費税率に引き下げる「奇策」も、消費税率を未来永劫引き下げて、高齢化に伴い経済成長率より速く増加する社会保障費や、教育費などの財政支出を賄い続けられる根拠はまったくない。ましてや、消費税を減税する代わりに所得税を増税すれば、前述のように、家計消費を減らす効果が生じるわけで、問題の解決にはならない。長続きする財政出動ができない以上、財政出動で着実な賃上げは起こらない。
労働生産性を高める成長戦略の有効性
残されたもう1つの処方箋は、労働生産性を高める成長戦略である。国内では需要不足との見方があるが、失業率はバブル崩壊後最低の水準に達し、人手不足が深刻化している。売り上げが急増しなくても、限られた人手でより高い付加価値を上げられれば、労働生産性は上昇する。しかも、ビッグデータを活用した人工知能(AI)やロボットなど第4次産業革命と呼ばれる動きが浸透しつつあり、これまで以上に労働生産性を高めるチャンスが訪れている。安倍晋三首相が今年1月の施政方針演説で言及した「働き方改革」は、まさにこの見方に立っている。
労働生産性が不可逆的に高まれば、恒久的に賃金を上げても企業経営に支障を来さない。供給側に働きかけてこそ、着実な賃上げ、さらには実質所得の増加につながる。こうして実質所得の伸び悩みが打開できれば、家計消費の低迷も打開できる。
消費税率を10%に引き上げることを再び先送りしても、労働生産性を向上する努力を怠り、実質所得の伸び悩みを打開できなければ、家計消費の低迷は止まらない。
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