蓼食う虫も好き好きのインセンティブ
ところで、経済学では個々人が(好みや基準がどうであれ)本人にとって望ましい選択を行う、と考える。この大前提を、「各人はインセンティブに従って行動する」というふうに表現する。本連載のタイトル「インセンティブの作法」とは、経済学の作法そのものなのである。
インセンティブは、金銭的な動機という狭い意味で使われることがあるが、実は金銭換算できないリターンやコスト、心理的な影響なども含む。「蓼食う虫も好き好き」で構わない、という点に注意してほしい。
話を制度設計に戻そう。実は、インセンティブや情報の非対称性は、経済学が古くから得意とするテーマだ。特に制度設計に関する問題は、メカニズムデザイン理論という分野で1970年代以降、精力的に研究されてきて、2007 年には、この分野のパイオニアたちにノーベル経済学賞が授与されている。
近年では、電波オークションの仕組みや研修医のマッチング制度、学校選択制など、現実の制度設計にその学術成果が役立てられている。ともすれば机上の空論と揶揄されがちな従来の経済学に対するイメージ(これは、エキサイティングで実用性の高い中身をきちんと伝えられていない私たち学者の責任なので反省……)に反して、メカニズムデザイン理論の考え方は着々と実践され、徐々に世の中を変えつつあるのだ。
この強力なツールをどう活用していくか。それは、社会や経済の仕組みをうまくデザインしていくうえでのカギを握っている。
【初出:2012.10.20「週刊東洋経済(介護で選ぶ老後の住まい)」】
(担当者通信欄)
なるほど、なるほど。アドバースセレクションは何かが起こる「前」、モラルハザードは「後」に存在する情報の非対称性が原因になるのですね。そしてインセンティブ。よく聞く言葉ですが、蓼食う虫も好き好きで OK、金銭的なもの以外に惹かれる場合にもあてはまる、と。
安田洋祐先生の「インセンティブの作法」連載第2回は2012年11月12日(月)発売の「週刊東洋経済(解雇・リストラ 新時代)」に掲載! ノーベル経済学賞で理想のパートナーを探せる!?合わせてご覧ください!
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら