学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ 安田洋祐編著 ~より多くの人の希望をかなえる制度とは

学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ 安田洋祐編著 ~より多くの人の希望をかなえる制度とは

評者 江口匡太 筑波大学大学院准教授

 古代イスラエルのソロモン王の前で二人の母親が子を奪い合う話がある。どちらも譲らないので、剣で子を切り分けることを提案する。大岡裁きにも類似の話があり、その顛末は広く知られている。多数の生徒の志望校選択の問題も、子が本当の母親のところに戻る、この話に似ている。

公立小中学校の学区制は徐々に緩和され、選択の余地が増えつつあるが、いまだに単純な抽選に近いものが多い。このような場合は、高倍率の学校を避ける安全策がとられることも多く、生徒の志望の分布を倍率通りとは受け取りにくい。生徒の希望を本当に実現できているのか判断できないのだ。

望ましい学校選択制度のポイントは三つある。志望校を正直に表明できるか、一度決まったマッチングの結果が安定的か、そして、より多くの人の希望を実現できるか、である。米国の制度、東京などで行われている制度、そして本書が提案する制度について、理論的検討とシミュレーションを行い、本書の提案の望ましさを主張しているが、ゲーム理論による学術的成果を伴った提案は説得力がある。

ところで、王の裁量で決められる古代と違い、現代では制度の決定にあたり市民が公正だと納得しなければならない。どんなに良い理論も複雑であれば理解してもらえない。実際、ソロモン王の提案は純理論的には欠陥があり、欠陥のない方法を明らかにした研究もあるが、一般の人が理解できる代物ではなかった。本書の提案は、理論家が陥りがちなホワイト・キャンバスに絵を描くようなものとは違い、これまでの経緯を考慮した現実的なものだ。そして、専門家の知見が社会に広く普及されるためにも、啓蒙をも目的とした本書の役割は極めて大きいといえよう。

やすだ・ようすけ
政策研究大学院大学助教授。専門はゲーム理論、産業組織論。1980年生まれ。東京大学経済学部卒業。2007年米プリンストン大学で博士号(経済学)取得。在学中はノーベル経済学賞受賞者のエリック・マスキン教授の指導を受ける。同年より現職。

NTT出版 2520円 173ページ

  

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