「東大推薦入試が塾に攻略された」は誤解だ 「14名合格」のAO義塾に疑問をぶつけてみた

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もちろん、そんなことが許されるわけがない。

ガイドラインはあくまでもガイドラインであり法的な拘束力はない。ただし、それをあえて無視して独自のロジックで合格実績を発表するのなら、そのロジックを公表すべきだろう。

少なくとも大手塾はこのガイドラインを意識しており、合格実績の下にはたいてい小さく、「模試受験者や無料体験授業受講者は含みません」など、合格者のカウントの仕方についての注意書きを添えているものである。

たとえば前述の東進のホームページには「今回の東大推薦入試に合格した東進生21名は、現役生のみ、講習生も一切含んでおらず、全員が東進の授業をしっかりと受講しています」と書かれている。

「その塾でどのくらいの時間学んだか」は意味がない!?

実態を確かめるべく、私はAO義塾にメールと電話で取材を申し込んだ。電話で斎木代表と話すことができた。

斎木氏は「東大推薦入試の1次選考通過者27名を対象に2次選考の直前対策講座を、授業料・交通費・宿泊費すべて無料で行い、そのうちの14名が合格した」としたうえで、「ガイドラインは知らなかった」と答えた。

「では14名の合格者は、それぞれいつからAO義塾に在籍し、どれくらいの時間のサポートを受けたのでしょうか」という質問に対し斎木氏は、「その質問には意味がないと思います。若者が将来を真剣に考えることが大事ではないでしょうか」と答えた。

1次選考前から指導したという8名はもともとAO義塾の生徒だったのか、それとも推薦枠を得てからAO義塾を訪れたのかなど確かめたかったが、斎木氏は、「さきほどから同じような質問ばかりしますが、質問の主旨は何ですか?」と質問返しで回答を避けた。

「主旨は何ですか?」の質問返しに対しては、私も返答せず、代わりに「すみません。それは私も答えに窮します」と答えた。

塾が志望校合格を掲げて「サービス」を提供している以上、そのためにどれだけの費用と時間がかかるのか、目安だけでも確認するのは当然であると私は考えているため、質問の主旨を特段言語化していなかったし、仮に私が何をいおうと、斎木氏に答える気がないことは明らかだったからだ。

結局「電話では真意が伝わらないだろうから、質問とその主旨を添えてメールで送ってほしい。そのうえで後日直接お会いしましょう」と言われ、電話を切った。メールを送ったが、返事はない。電話をしても折り返しもない。「主旨」に意味がないと判断されたのだと思うしかない。

実態はつかめなかったが、斎木氏の回答は、私にとって十分だった。この質問に本当に意味がないかどうかは、この記事を読んだ読者が判断すればいい。

なお、明日さらなる疑惑に迫る後編を配信する。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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